開閉できるポケット付いたナノカーボン製サイコロを開発―薬剤の患部への輸送や環境汚染物質の選択的除去など期待:物質・材料研究機構
(2017年8月8日発表)
(国)物質・材料研究機構は8月8日、開閉可能なポケットが付いたマイクロサイズのナノカーボン製サイコロを開発し、ポケットのふたの開け閉めに成功したと発表した。ポケット内にマイクロサイズの細胞や薬剤などを取り込んで患部に輸送する医療応用などが期待できるという。
開発したのは、炭素原子70個から成る楕円球状分子C70フラーレンを材料として用いたサイコロ状のキューブ物質。キューブの各面に一つずつポケットがある。フラーレンの構造制御法として物材研究機構が確立した結晶析出法「液液界面析出法(LLIP法)」に改良を加えたDynamic LLIP法により、キューブすべての面に約1㎛(マイクロメートル、1µmは100万分の1m)のポケット構造を作り出した。
ミクロのポケットを持つこのキューブに過剰量のC70フラーレンを添加し、結晶成長させたところ、ミクロのポケットはフラーレンシートで蓋(ふた)された。この状態のキューブに強い電子線を照射したところ蓋のフラーレンシートがはがれ、蓋を開け閉めする構造操作が自在にできることが明らかになった。
さらにこのポケット構造は、そこに取り込まれるマイクロメートルサイズの粒子の違いを認識することもわかった。大きさが同じで化学的性質が異なる炭素素材と樹脂由来のマイクロ粒子を一緒にキューブと混合してポケットに取り込ませたところ、大きさは同じであるにもかかわらず、樹脂由来の粒子はポケットに1つ、炭素素材の粒子は複数個取り込まれた。これは、ポケット構造に由来する物理吸着挙動と、フラーレンに由来する化学吸着挙動により異なる認識挙動が起きたためと考えられるという。
これらの機能を備えた新物質は、薬剤の患部への輸送・徐放(じょほう:徐々に放出すること)や環境汚染物質の選択的な除去などへの応用が期待できるとしている。