サンゴが記録したCO2による海洋酸性化を確認:東京大学/海洋研究開発機構/産業技術総合研究所ほか
(2017年8月21日発表)
東京大学大気海洋研究所は、(国)海洋研究開発機構高知コア研究所などとともに、北西太平洋の父島(小笠原諸島)と喜界島(奄美群島)で採取したハマサンゴを分析した結果、人間活動によって排出された二酸化炭素(CO2)が海洋の酸性化を進めていることが明らかになったと、8月21日に発表した。
サンゴの骨格形成にも影響が出ているとみており、海洋酸性化は今後経済活動などにも悪影響を与えると警告されている。(国)産業技術総合研究所、国土交通省の気象庁気象研究所などとの共同研究による成果。
大気中の二酸化炭素は産業革命以前に280ppm(ppmは100万分の1)だったが、化石燃料の燃焼などで大気中に放出された結果、現在では400ppmに増加した。その約3分の1は海水に溶け込み、弱酸性の炭酸として海水の水素イオン濃度(pH)を低下させ、海洋の酸性化を推し進めている。
海水が酸性化すると炭酸カルシウムの骨格を持つサンゴや貝、ウニなどの海洋生物の石灰化母液に悪影響を与えるとみられる。
塊状ハマサンゴは100年以上の寿命があり、その骨格の年輪を見ると、何時、どのような酸性化の影響があったかがわかる。気象庁の長期の海洋酸性化のモニタリング記録を基に、サンゴの骨格の同位体を調べることで海洋酸性化がサンゴの石灰化に与える影響を調べた。
同位体はホウ素同位体比(10Bに対する11Bの比率)と炭素同位体比(12Cに対する13Cの比率)を測定した。ホウ素同位体比は石灰化母液のpHを、炭素同位体比は海水中の炭素の組成を記録する。中でも高精度の測定が極めて難しいホウ素同位体は、海洋研究開発機構 高知コア研究所の質量分析装置を使った。
石灰化母液はサンゴの骨格を作る細胞と炭酸カルシウム骨格の間にある弱アルカリ性の液体である。これまでは海水が酸性化しても、サンゴには自身でpHを調整する能力があり、石灰化母液は一定pHに保たれていて影響はほとんどないとの説があり、議論になっていた。
今回の調査の結果、石灰化母液の調整機能が低下している可能性があるとしている。
サンゴの骨格断面のX線写真を撮って骨格の成長などを調べたところ、骨格のホウ素同位体と炭素同位体が共に減少しており、中でも1960年以降の減少が目立った。
化石燃料の消費や森林破壊によって人為的に放出された12Cに富んだ炭素が、海表面付近に溶け込み同位体の組成を変化させた結果と解釈できる。
調査に使った塊状ハマサンゴは環境ストレスへの耐性が比較的高いもので、他の脆弱な造礁サンゴはもっと大きな被害を被っている心配があるとみている。