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遺伝子16S rRNAの中立進化を証明―進化系統分類の指標としての適性検討に重要な知見:産業技術総合研究所/北海道大学

(2017年8月30日発表)

 (国)産業技術総合研究所と北海道大学の研究グループは830日、進化の上で大きな隔たりがある2種のバクテリア中に含まれる16S rRNAと名付けられた遺伝子とその機能を分析したところ、両遺伝子における配列の違いの大半は機能に大きな影響を及ぼしていないことを発見したと発表した。16S rRNA遺伝子のいわゆる中立進化が検証されたとしている。

 動植物と異なり化石がほとんど存在しない微生物の進化系統の解析研究では、微生物に含まれるたんぱく質分子あるいは遺伝子分子の系統関係を手掛かりに進化過程が追跡される。

 この解析で重要な役割を果たしているのが「分子時計」とも呼ばれる進化系統解析の分子マーカーで、16S rRNA遺伝子は分子時計とみなされ、原核生物の進化系統分類の指標として用いられている。しかし、16S rRNAが分子時計の要件の一つである「進化的な中立性」を満たしているかどうかは実験的に検証されていなかった。

 研究グループは今回、バクテリア系統分類上の最上位である門レベルで異なる大腸菌の16S rRNAの比較機能解析を行った。具体的には、プロテオバクテリア門に分類される大腸菌の16S rRNA遺伝子を、アシドバクテリア門由来の16S rRNA遺伝子と入れ替えて機能解析した。

 16S rRNA遺伝子は細胞の生育に不可欠で、導入した16S rRNAが機能しないと細胞は生育しない。実験の結果、入れ替えた大腸菌の生育が確認された。ただ、増殖機能に低下が観察されたため、さらに塩基配列の違いによる機能の違いを調べたところ、塩基配列の違いの大半(99.4%)は生育に影響しないこと、つまり中立変異であることが確認されたという。

 これら一連の解析により、16S rRNA遺伝子の分子時計としての適性の検討に重要な知見が得られたとしている。