圧電体の結晶構造が高速で変化する様子を直接観察―圧電性のしくみの解明に貢献し、新規材料の開発を加速:東京工業大学/名古屋大学/高輝度光科学研究センター/物質・材料研究機構
(2017年8月29日発表)
試料に電圧を印加した時に起きる結晶の構造変化の模式図
赤で示した結晶の伸び、青で示した結晶の一部が赤で示した結晶へ変化、青および赤で示した結晶の角度の変化といった複雑な現象が同時に起こっている。
(国)物質・材料研究機構は、8月29日、東京工業大学、名古屋大学、(公財)高輝度光科学研究センターと共同で、電圧によって形状が変化する圧電体結晶について、1億分の4秒(40ナノ秒(ナノ秒は10億分の1秒))という短時間に高速で、結晶の中にある原子の位置の変化等が起きていることを世界で初めて明らかにした。
圧電体は、電気信号を振動へ変換する物質のこと。結晶に力が加わるとそのエネルギーが電気エネルギーに変わる圧電効果と、逆に電圧を加えると結晶が歪んで機械的エネルギーをもたらす逆圧電効果という現象が起こる。このような性質を持つ圧電体は、我々の暮らしの中で広く使用されており、例えばインクジェットプリンタのヘッド、カメラの手振れ防止機構等に幅広く用いられている。
研究グループは、大型放射光施設SPring-8を用い、強くて指向性の高いパルスX線を圧電体の結晶に照射。X線回折パターンをストロボ撮影する、時間分解X線回折実験を行ない、電圧の変化によって時々刻々と変化する原子配置を観察した。
その結果、圧電体結晶において、結晶内での原子の位置が変わり、結晶のある部分が伸びたり、結晶格子の向きが部分的に変わったりする複雑な現象が、1億分の4秒の短時間に高速で起きていることを、世界で初めて解明した。
これにより、物質の圧電性によって生じる現象が、どれくらいの速度で、どのように起こっているのかを測定することが可能になる。また、いろいろな圧電体における発現のしくみの解明が大きく進むと考えられ、性能向上への応用も期待される。また従来は試行錯誤によって行われてきた、新規の圧電性物質の探索も加速することも期待される。
圧電体は、最近では、自動車のエンジンなどの身の回りにある振動から発電する「振動発電」や、建物等の異常振動を検出するセンサーなどへの応用も期待されており、物の情報をインターネットにつないだ「モノのインターネット」ともいわれるIoT(Internet of Things)ネットワークへの応用も期待されている。