駆動中の有機EL素子内部の電荷の挙動を非破壊計測―高効率、省エネ、長寿命の次世代素子の開発促進へ:産業技術総合研究所/次世代化学材料評価技術研究組合
(2017年8月31日発表)
(国)産業技術総合研究所と次世代化学材料評価技術研究組合(CEREBA)は8月31日、駆動している有機EL素子内部の電荷の挙動を分子レベルで非破壊計測できる技術を開発したと発表した。有機EL素子が発光するまでのわずかな時間に起こる電荷の状態が分かるため、有機EL素子の高性能化に向けた研究開発の促進が期待できるという。
薄型テレビやスマートフォンなどに使われている標準的な有機EL素子は、多層積層型と呼ばれ、発光層を挟んで電子注入層・輸送層、正孔生成層・輸送層などの有機層が積み重なり、それらが酸素や水などで劣化しないよう厳重に封止されている。
高効率化や省エネルギー化、長寿命化など有機EL素子の高性能化には、封止を解かずに非破壊で、有機層内部や界面での電荷の生成、輸送挙動を把握することが求められる。しかし、これまでは複数の有機層の情報が重なったデータから、個々の有機層の振る舞いや電荷の状態を取り出すことは困難だった。
研究グループは今回、和周波発生分光法(SFG分光法)と呼ばれる非線形レーザー分光法を用いた新計測法を開発した。SFG分光法は、光を通す基板であれば基板越しに有機層内部の分子の振る舞いを調べることができる。開発した計測法は、SFG分光法で照射するレーザーに同期させてパルス電圧を有機EL素子にかけ、レーザー照射とパルス電圧をかけるタイミングを少しずつずらしながらSFG分光測定を行う。
時間分解と呼ばれるこの手法により、パルス電圧をかけた際に生成される正電荷(有機カチオン種)と負電荷(有機アニオン種)の生成・輸送・界面での電荷再結合挙動を数10ナノ秒(10億分の1秒)スケールでリアルタイム計測することができる。
今後、新規材料を用いて作製した素子を新計測法で測定し、有機EL素子の駆動機構、長寿命化に必要不可欠な電荷輸送メカニズム、輸送特性向上に必要な要因の抽出、駆動劣化メカニズムの分子レベルでの解明などを進め、次世代有機EL素子の開発につなげたいとしている。