繊毛が協調して波打つ運動を司る因子特定―繊毛の異常による疾患のメカニズムに新たな知見:筑波大学
(2017年9月7日発表)
筑波大学の稲葉一男教授らの研究グループは9月7日、フランスCNRSビルフランシュ–シュル–メール臨海実験所と共同で、ウニ胚の繊毛が協調して波打つのを司っているたんぱく質因子を特定したと発表した。繊毛の異常が関わっている疾患のメカニズムや、繊毛を持つ動物プランクトンの行動メカニズムなどの解明につながる成果という。
ウニなどの水生無脊椎動物の胚には多数の繊毛が生えており、水中を自由に動き回ることができる。その際、密に生えた繊毛一本一本は同一方向に順番に、協調して波打ち、それによって胚は前進している。
研究グループは数年前に、精子の鞭毛を動かしている分子モーターの機能に関わっているたんぱく質「カラクシン」を発見した。このカラクシンは鞭毛や繊毛を持つあらゆる動物に存在することから、今回繊毛での役割を調べた。
ウニ卵は受精24時間後に最大の速度で運動できるようになるが、運動性の高まりに合わせて繊毛のカラクシン量の増加が認められた。
カラクシンの合成を阻害したところ、胚はあまり前進運動できず、多くはくるくると回った。個々の繊毛は激しく運動したが、繊毛の屈曲は浅く、繊毛が打つ方向がバラバラになった。
繊毛の付け根の基底小体を調べたところ、正常な胚では基底小体の方向が揃っていたのに対し、カラクシンを欠いた胚では方向がバラバラだった。
これらのことから、カラクシンによる繊毛機能の調節によって深い屈曲波が生成、それにより基底小体の配向が決まり、方向の揃った繊毛打が生まれることが分かったという。
繊毛はヒトの脳室や気管、初期胚の盆状上皮細胞などに生えており、その異常が疾患の一因になっている。今回の成果はこれらのメカニズムを知るうえで重要な知見という。