「脳卒中後疼痛」の症状を再現するモデル動物を開発―“最悪の痛み”の克服に向けて朗報:産業技術総合研究所
(2017年9月12日発表)
(国)産業技術総合研究所は9月12日、治療が困難な「脳卒中後疼痛(のうそっちゅうごとうつう)」の症状を忠実に再現するモデル動物を開発したと発表した。
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりする病気で、視床と呼ばれる脳の中心領域が損傷を受けると、発症してからかなりの期間経過してから痛みが生じる。それを脳卒中後疼痛という。
痛み方は、さまざまだが、普通なら痛くないごく軽い刺激を受けてもそれを痛みと感じてしまうアロディニアという感覚異常がしばしば生じる。
痛みは、身体の異常を知らせる生理的反応だが、脳卒中後疼痛は“痛みそのものが病気”という特殊な痛みで、永続的に続くこともあって日常生活やリハビリテーションが著しく阻害される。そのため、脳卒中後疼痛は、人間が直面する“最悪の痛み”と呼ばれている。
脳卒中後疼痛は、脳卒中発症後、数週間から数カ月後に出現することが多く、その間の脳の変化が痛みを生み出していると考えられてきたが、その変化の実態はまだ解明されておらず、治療法も確立されていない。
そうしたことから産総研は、脳卒中患者の大きな苦しみになっている脳卒中後疼痛のメカニズムの解明や、開発された治療法を評価するために脳卒中後疼痛の症状を忠実に再現できるサルのモデル動物を開発した。
これまでも、げっ歯類(ノミ状の前歯を持つ哺乳類。ネズミなど)をモデル動物とした研究は複数あったが、いずれもアロディニアの発症に至る時間経過が人間と異なっていた。
産総研の研究チームは、モデル動物のサルの脳の視床に局所的な脳出血を作って感覚刺激に対する逃避行動を調べた。その結果、数週間後に脳損傷前は逃げることがなかった軽い接触でも逃げるようになってアロディニアと見られる症状が生じて脳卒中患者の脳卒中後疼痛と類似の病態を示すことが分かった。
研究チームは、「世界で最も人の病態に近い脳卒中後疼痛モデル動物であるといえる。このモデルを用いることで、脳卒中後疼痛を引き起こすと考えられている不適切な脳の変化の解明や、この病気を根治する治療法の開発につながる可能性がある」といっている。