ゾウムシが硬いのは共生細菌によることを解明:産業技術総合研究所
(2017年9月19日発表)
クロカタゾウムシと細胞内共生細菌ナルドネラ
©産業技術総合研究所
(A)成虫。(B)ナルドネラの透過電子顕微鏡像。(C)幼虫。(D)幼虫の消化管をとりまく共生器官。(E)菌細胞の細胞質に局在するナルドネラ。(D)と(E)ではナルドネラを赤、DNAを青に蛍光染色した。
(国)産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門は9月19日、甲虫類のゾウムシ4種の共生細菌の設計図ともいえる全ゲノム配列を決定し、共生細菌がゾウムシの外部の骨格の硬さや着色に関与していることを解明したと発表した。多くの甲虫類は農業栽培や森林保全にとって手強い害虫であるだけに、新たな害虫防除法の開発につながるとみている。放送大学や九州大学、鹿児島大学、京都大学、東京大学、沖縄科学技術大学院大学、基礎生物学研究所が協力した。
ゾウムシは頭の先端がゾウの鼻のように前方に長く伸びていることから名付けられた。産総研は、ゾウムシの体内に1億年以上も前から密接に共生しながら、機能が不明であった共生細菌ナルドネラの全ゲノム配列を決定し、解明に挑んだ。
地上の生物種の半数以上を占める昆虫類の中でも、甲虫類は最も種数が多い。硬い外部の骨格クチクラ(丈夫な膜状構造)によって乾燥や外敵から身を守り、生き延びてきた。
なかでもゾウムシ類は特に硬い骨格を持ち、共生細菌ナルドネラを体内に持っている。進化の系統樹を調べると、1億年以上も前から共生関係にあると推定される。
今回は、クロカタゾウムシ、ヤシの害虫のヤシオオオサゾウムシ、松材の害虫のオオゾウムシ、さつまいもの害虫のイモゾウムシの4種類に共生するナルドネラの全ゲノム塩基配列を決定した。
ゲノムの大きさは約20万塩基対と極めて小さく、生存に必要な最小限の複製、転写、翻訳の遺伝子に限られていた。中でもアミノ酸の一種のチロシン合成の機能だけは持っており、ゾウムシの酵素遺伝子がチロシン合成を最終段階でコントロールし、骨格の着色や硬さに重要な役割を持っていることを裏付けていることが分かった。