ピロリ菌の発がん活性を分子構造レベルで究明―胃がんの予防法、早期治療法の開発に向けて前進:東京大学/高エネルギー加速器研究機構
(2017年9月20日発表)
東京大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)の研究グループは9月20日、胃がんの発症に関わっているピロリ菌の産生たんぱく質CagAの東アジア型と欧米型とを比較解析し、両者の胃がん発症リスクの違いを生み出している原動力を分子構造レベルで解明したと発表した。革新的な胃がんの予防法、早期治療法の開発につながる成果という。
日本や中国、韓国などの東アジアは世界的な胃がん多発地域として知られており、東アジアで見られるピロリ菌が産生する東アジア型CagAたんぱく質が、それ以外の地域で見られる欧米型CagAに比べ、胃がん発症により深く関与しているとされている。
そこで研究グループは、生体分子の立体構造を解明できるX線結晶構造解析法などを用いて、タイプの異なる2種のCagAのがん発症過程や発がん活性の違いなどを調べた。
ピロリ菌から生み出されるCagAは胃の上皮細胞の中に送り込まれ、細胞内でリン酸化(チロシン残基にリン酸化修飾)されてSHP2(チロシン脱リン酸化酵素)と特異的に結合、SHP2の酵素活性を異常に亢進(こうしん)させ、これが発がんを促しているとされている。
研究ではまず、両タイプのCagAのSHP2との結合の強さを測定したところ、東アジア型CagAの結合能は欧米型に比べ100倍以上に達することが分かった。
次にX線結晶構造解析法でCagAとSHP2の複合体の立体構造を解明、東アジア型CagAと欧米型CagAの間に存在する1つのアミノ酸残基の違いによる立体構造の差異が、CagAのSHP2結合能に大きな影響を与えていることを見出した。
このアミノ酸残基は、東アジア型CagAではフェニルアラニン、欧米型CagAではアスパラギン酸で、フェニルアラニンをもつ東アジア型ではCagA-SHP2結合が圧倒的に強固であり、これがSHP2の酵素活性を著しく増強し、胃の細胞のがん化を促す異常なシグナルを強力に誘導することが分かった。
この東アジア型CagAのアミノ酸残基を欧米型の残基に置き換えたところ、SHP2結合能が低下し、発がん関連生物活性も減弱、逆に欧米型CagAの残基を東アジア型の残基に置き換えたところ、SHP2結合能は増大、CagAの発がん関連生物活性も顕著に増強した。
これらの結果から、CagAたんぱく質のある特定の一か所のアミノ酸残基の違いにより、CagA-SHP2結合の強弱が決定され、東アジア型CagAに強い発がん生物活性が付与される構造生物学的仕組みが明らかになった。この成果は胃がんの予防や早期治療といった臨床技術の開拓に役立つことが期待されるとしている。