高山植物・チョウノスケソウは緯度が低いほど多様性が減少―北半球レベルで初めて実証 種の絶滅の恐れも:筑波大学ほか
(2017年9月26日発表)
筑波大学生命環境系、富山大学極東地域研究センターらの研究グループは9月26日、北極圏から本州中部の山岳地帯にかけて生息するバラ科の植物チョウノスケソウが緯度の低下(南下)に従って遺伝的多様性が減少していることを実証したと発表した。
生態学では一般的に緯度の南下と共に種レベルで遺伝的多様性が増加すると考えられているが、今回はそれとは逆のパターンが起きていることを北半球レベルで初めて実証した。多様性の低下は、今後の気候変動などで種の存続の危機を招きかねないと心配している。
研究グループは、北極圏スバールバル諸島(ノルウェー)、米国アラスカ州、スウェーデンなどの北極圏から、中国・長白山、北海道・大雪山、南限の中部山岳地帯の八ヶ岳や木曽駒ケ岳まで18か所のチョウノスケソウ集団を調べ、遺伝的多様性が緯度によってどう変化しているかを解析した。
その結果、日本の北アルプスや南アルプスなどの集団の多様性が、北極圏と比べて減少していた。特に中部山岳地帯は世界で最も南限とされており、ここでは多様性の減少が著しく、北極圏の9割以上が喪失していた。多様性が顕著に減少している一方で、他では余り見られないような遺伝的組成も多かった。
氷河期と間氷期が繰り返された地球の気候変動の歴史の中で、中部山岳地帯の3,000m級の高山に存続したチョウノスケソウは、他の地域集団との交配の機会などが失われたために隔離や孤立化が進んだ。北極圏では間氷期以降の新たな移住によって集団が成立したために、北極圏では厳しい寒さの中でも集団間の遺伝的分化の程度は緩やかだったと見られる。
植物は環境の変化には自然淘汰によって適応してきた。進化を促す遺伝的変異が減少すると、適応力が失われるとの予測がある。チョウノスケソウは、アラスカでは強風にさらされる稜線沿いの「風衝地型」にも、夏まで雪が残るような「雪田型」地帯にも双方に適応しているが、日本のチョウノスケソウは「風衝地」だけに分布していて「雪田」にはなかった。これは同じ種に属しながらも、雪田環境に進出できるような遺伝的能力が失われたものとみている。