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沖縄で採取された化石は、北半球初のコセミクジラと証明:国立科学博物館

(2017年10月10日発表)

(独)国立科学博物館(科博)は1010日、米国占領下の沖縄の海底から採取したヒゲクジラの化石が、南半球だけに生息すると思われていた謎のコセミクジラであったと発表した。人類が出現した氷河期に、海生哺乳類が北半球から南半球にかけて大規模な交流をしていたことを明らかにした。科博地学研究部の甲能直樹グループ長、蔡政修研究員を中心とする6カ国11人からなる国際共同研究グループによる成果となった。

 コセミクジラは南半球の中緯度域の外洋に生息する体長5mほどの小型のヒゲクジラで、その行動や生態には謎が多く、目撃例や化石の発見も南半球に限られていた。

 論文共著者の一人、元岩手県立博物館の大石雅之博士が米国スミソニアン研究所に収蔵された標本の調査中に、ヒゲクジラ化石がコセミクジラの特徴を持つことに気づき、2014年から科博やオーストラリアのビクトリア州立博物館などと共同で研究していた。

 この化石は、米国地質調査所が1940年代後半に米国占領下の沖縄(現在の沖縄県うるま市)で採取したもの。

 一方南イタリアで、1990年代に発見された耳骨化石が最近になってコセミクジラに類似していることがわかり、広域的な共同研究を進めていた。

 コセミクジラは約1600万年前に現れ200万年前に絶滅したケトテリウム類と呼ばれる北半球産の小型のヒゲクジラから進化し、一部が赤道を越えて南半球に進出し現在のコセミクジラに進化したと考えられている。

 ケトテリウム類は、生まれ故郷の北半球では鮮新世(533258万年前)の初めに絶滅し、その後の空白の生態的地位をどの海洋生物が埋めたのかは謎のままだった。

 今回の発見は、北半球で空白だった小型ヒゲクジラの生態的地位を埋めていたのはコセミクジラだったことを明らかにした。

 南半球のコセミクジラが赤道を越えて北半球にまで分布を広げていたとの事実は、今後、北半球からペンギンが発見され、南半球からセイウチが見つかる可能性もあることを思わせる意義深い研究として注目されている。