「柔らかい分子」の精密制御に成功―ナノマシン設計に新たな可能性:物質・材料研究機構
(2017年10月13日発表)
(国)物質・材料研究機構は10月13日、形が変わりやすい「柔らかい分子」の変形や動きを精密に制御することに成功したと発表した。形が変わらない「硬い分子」の動きを制御する試みは従来もあったが、柔らかい分子の制御は難しいとされていた。材料や医療分野への応用が期待される分子サイズの極微の機械「ナノマシン」の設計に新たな可能性をひらくと期待している。
制御に成功したのは、ナノマシンを車に見立ててその制御を競う国際レース「ナノカーレース」に日本代表として参加した同機構の中西和嘉主任研究員をリーダーとする研究チーム。フランスの国立科学研究センターも共同研究に加わった。
研究チームは、有機化学の分野で「亀の甲」と呼ばれる6角形のベンゼン環4つを含む高分子「ビナフチル」2個を別のベンゼン環で結合した。その結果、この高分子は2個のビナフチルがちょうつがいで結ばれた可動部となり、平たい形や小さく折りたたまれた形など主に3種類の形をとることを突き止めた。さらに外部からエネルギーを与えることで、可動部のビナフチルがパタパタと動くことをまず理論計算で確認した。
そこで、この高分子をナノカーとし、金の表面でその動きを制御する実験を試みた。ナノカーを制御するためのエネルギーは、超高真空中で極微の探針を高分子に触れさせずに近づけたときに探針と高分子の間に電流が流れる現象「トンネル効果」を利用して与えた。さらにナノカーの移動だけでなく、可動部を変形させるのにこのエネルギーが効果的に作用するよう工夫した。
その結果、ナノカー役の高分子が小さく折りたたまれた形から平たい形へ変形させることや、探針でトンネル電流を与える部位を変えることで平たい形の高分子を折り曲げたり自由に移動させたりすることに成功した。
研究チームは「この技術を発展させていけば、未発達な極小機械としての分子機械の自在な制御が可能になる」として、材料や生体の中で働くナノマシンへの発展が期待できるとみている。