女性の、暴力によるストレス関連障害の研究に朗報―雌マウスの「社会的敗北ストレスモデル」を確立:筑波大学
(2017年10月16日発表)
筑波大学は10月16日、雌のマウスが雄のマウスから攻撃を受けた場合の影響を調べられる「社会的敗北ストレスモデル」を確立したと発表した。
社会的敗北ストレスモデルは、うつ病のモデル動物として世界中で幅広く使用されている。今回のモデルは、雄マウスが雌マウスを攻撃するという通常発生しない異常な行動を引き起こすようにして雌マウスに生じるストレスを調べられるようにした。
ドメスティックバイオレンス(配偶者などから受ける暴力)をはじめ暴力によって生じるうつ病や不安障害に苦しむ女性は少なくない。また、女性はうつ病や不安障害の発症率が男性より高いことが知られている。
しかし、そうした研究に用いられているモデル動物の多くは、雄に偏っている。
雄のマウスが雌を攻撃することは通常発生せず、マウスの社会的敗北ストレスモデルは、雄間の攻撃行動を用いるため、攻撃行動を向けられることが無い雌マウスでは研究することが容易でないからだ。
雄間の攻撃行動を用いるマウスの社会的敗北ストレスモデルでは、身体が大きく強い雄マウスによって攻撃されて敗北ストレスを受けた雄マウスが体重減少や、うつ様症状などを示すことが知られ、多くの知見が蓄積されている。
しかし、それはあくまでも雄マウスにおけるメカニズムであり、雌マウスではどうなのか、性差があるのかについては研究が必要とされている。
そこで、筑波大人間系の高橋阿貴助教と米国のマウントサイナイ医科大学、ロックフェラー大学の研究グループは、共同で女性の暴力経験によるストレス関連障害を生物学的に研究するための雌マウスの社会的敗北ストレスモデルを確立した。
研究グループは、生体の視床下部と呼ばれる部分にあるエストロゲン受容体α(ERα)発現ニューロンを活性化すると、雄マウスが雌に対しても攻撃行動を行うようになるという報告があることを知り、雄マウスの視床下部のERαニューロンを活性化させることで、雌マウスへの攻撃を10日間に渡って行わせることができるようにした。
筑波大は「社会的敗北ストレスを受けた雌のストレス感受性には個体差があることが確認された」といっている。