[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

貝やゴカイに特有の発生制御遺伝子発見―動物の形態の多様性に迫る:筑波大学

(2017年10月31日発表)

 筑波大学は1031日、動物がなぜ今ほど多様な形態になったのかを解明する手がかりとなる新遺伝子群を発見したと発表した。巻貝やゴカイなど分類学で冠輪動物に属する生物が進化の過程で獲得した新しい遺伝子が、受精卵から成体になる発生初期の細胞分裂を制御している可能性があることを突き止めた。形態の多様性は多くの動物に共通する既存遺伝子の使いまわしによるとする従来の説に一石を投じた。

 筑波大 生命環境系の守野孔明助教、和田洋教授らの研究チームが発見した新遺伝子群は、受精卵が細胞分裂を繰り返し成体になっていく発生の初期卵割期を制御するたんぱく質(転写因子)を作る働きをしていた。

 研究に用いたのは、巻貝の一種「クサイロアオガイ」とゴカイの一種「ヤッコカンザシ」。生物分類学上いずれも冠輪動物に属する動物で、ヒトやウニを含む後口動物、昆虫や線虫などの脱皮動物とは別のグループに属している。

 新たに見つかった遺伝子群を解析したところ、初期卵割期に受精卵がどのように分裂していくかを制御する転写因子を作る働きをしており、冠輪動物で初めて見つかった。このためこれらの遺伝子群は、冠輪動物が進化の過程で後口動物より比較的禁近縁にある脱皮動物の系統と別れた後に獲得したと研究チームはみている。

 近年の研究では、発生に関わる遺伝子群は多くの動物に共通しており、その形態の多様性はそれら共通の遺伝子群の使い方を変えているだけという使いまわしによるものとの説が主流になりつつあった。しかしこの説は、マウスやウニ、ショウジョウバエ、線虫といった実験用のモデル生物を用いた研究で得られた成果を基にしていた。

 これに対し、今回見つかった新遺伝子群はこれまでの実験用モデル生物とは分類学上別のグループに属する冠輪動物にしか存在しないタイプだった。その結果、既存遺伝子の使いまわしではなく、新規遺伝子群の獲得が動物の形態形成に影響する発生システムの進化を左右してきた可能性が示されたという。

 研究チームは今後、これまでデータの乏しかった冠輪動物でさらに研究を進めることで、生物の多様性を生み出した仕組みに関する統合理論の創出を目指したいとしている。