ハランの花粉の運び手はナメクジではなくキノコバエ―「世界で最も変わった花」の形容は消失か?:神戸大学/森林総合研究所
(2017年10月31日発表)
写真提供:末次健司
地面にのめり込んだような格好で咲くハランの花
神戸大学と(国)森林総合研究所の研究グループは10月31日、「世界で最も変わった花」と言われている常緑多年草のハラン(葉蘭)の花は、キノコに擬態することでキノコバエと呼ばれるハエ類を引き寄せ、キノコバエの仲間たちに花粉を運ばせていることが分かった、と発表した。
ハランはキジカクシ科という科に属する植物で、その葉は大きく、つやのある深緑色をしており、和食の料理の盛り付けなどに利用されている。花は紫色で多肉質で、キノコに似た姿をしていて、地面にめり込んだような格好で咲く。
多くの被子植物はハチなどに花粉や蜜を提供し、代わりに花粉を運んでもらって受粉の手助けを受けている。ハランの場合は、これまでナメクジやヨコエビなどの土壌動物が花粉の運び手とみなされ、こうした運び手は他にほとんど例がないことから、「世界で最も変わった花」と呼ばれてきた。
ナメクジ説が浮上したのは1889年と古く、ヨコエビ説が唱えられたのは1995年のこと。しかし、いずれの説とも確かな観察で得られた知見に基づくものとは言えなかった。
研究グループは今回、ハランの自生地において、ハランの花に訪れる動物を2年間にわたり昼夜観察し続けた。
その結果、ナメクジは全く訪れず、ニホンオカトビムシ(ヨコエビの仲間)が訪れる回数も極めて少ないことが判明した。
それに対し、キノコバエ類のうち幼虫がキノコを食べるキノコバエの仲間の訪れが観察され、関心を集めた。観察していると、これらのキノコバエはハランを訪れるや素早く花の内部に潜り込み、大量の花粉を体に付けて飛び去った。また、花に着地した段階で既に前の花の花粉を付けていた例が見られ、そうした花を後日観察したところ結実が認められた。
これらの観察結果から、研究グループは従来唱えられていたナメクジやヨコエビではなく、キノコバエがハランの花粉の有効な運び手であると結論付けた。ハランはキノコに擬態することで、キノコに集まるキノコバエを騙し、花粉を運ばせるというしたたかな戦略をとっていることが示唆された、としている。
同時に、「世界で最も変わった花」というハランの形容に否定的な見方を示した。