過剰な恐怖反応と脳内物質オレキシンとの関係を解明―心的外傷後ストレス障害の治療の可能性浮上:筑波大学ほか
(2017年11月20日発表)
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構と金沢大学、新潟大学、理化学研究所などの共同研究グループは11月20日、睡眠覚醒などを制御する脳内物質オレキシンが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)にも深く関与していることを発見するとともに、恐怖を感じるレベルを制御しているメカニズムを解明したと発表した。PTSDに見られる過剰な恐怖反応やパニック発作を抑制できる可能性があるという。
オレキシンは睡眠や覚醒、食欲のコントロールに関わっている脳内物質として知られている。ただ、それだけではなく情動とも関係し、恐怖や危険を感じる状況ではオレキシンニューロンが興奮することが知られている。
研究グループはこの点に着目し、特定の神経細胞を操作できる遺伝子改変マウスを使ってオレキシンと情動との関連を調べた。
恐怖を引き起こす現象に「汎化(はんか)」と呼ばれるものがある。恐怖を感じた時の環境や刺激などが恐怖と結び付いて記憶され、似たような状況に出会うと恐怖が惹起(じゃっき)される現象で、PTSDは汎化による反応が強く起こり過ぎる典型例。深い心の傷(トラウマ)を受けた人は何年経ってもちょっとしたきっかけで大きな恐怖に襲われたり、関係する状況を極度にさけたりする。
研究の結果、オレキシンは脳深部の青斑核(せいはんかく)という部位でノルアドレナリンを作り出す神経細胞群(NAニューロン)を刺激し、恐怖に関連した行動を調節していること、オレキシンから刺激を受けたNAニューロンは同じく脳深部にある扁桃体という部位に働きかけ、恐怖記憶を汎化させ、恐怖の応答の強弱を制御していることを発見した。
さらに、オレキシンはオレキシン1型受容体と結合することでNAニューロンを興奮させており、この結合によって恐怖のレベルを調整していることを突き止めた。
オレキシンの受容体への結合を妨げる物質を用いれば、PTSDに見られるような過剰な恐怖反応やパニック発作を抑制することができる可能性があるとしている。