電子波の位相変化は、人工原子の内部構造を反映していた―軌道に依らない普遍性は無かった:東京大学/産業技術総合研究所ほか
(2017年11月22日発表)
大きなペットボトルに水をいっぱいに入れて逆さにすると水が「かたまり」として出たり、空気が「大きな泡」として入り込んだりすることを繰り返す。そこで、2つのペットボトルを並べてそれらの底をチューブでつなぎ、何らかの結合をさせ、2つのペットボトルを逆さにすると、同時に水を出したり空気を入れたりする「変化なし;同位相」の挙動になったり、片方が水を出している時に、もう一方は空気を入れているという「πの差;逆位相」の挙動になる場合がある。
このような台所で出来る簡単な水を使った実験でも「同位相」と「逆位相」を決めている条件は何なのかは大変な難問で、まだよく分かっていないことも多い。
さて、本研究では「人工原子」に対して、電子波がどのように位相変化をして行くか? 変化無しか? π変化か? という長年の課題に取り組んでいる。他のグループによる1997年の実験では、必ず「π変化」をすることが報告された。それは、「人工原子」へ電子が詰まって行く際には必ず位相のπジャンプが起こるという「普遍性」を暗示していた。
自然界の原子核を中心とする「原子」とは異なった振る舞いであって、それにあわせたユニバーサル理論も作られていたが、起源は未解決であった。
今回、東京大学と(国)産業技術総合研究所などの研究チームは共同で、電子波二経路干渉計(光に対するマッハツェンダー干渉計と共通の動作原理)によって精密な実験を行い、数百個の電子が詰まっている系にさらに電子をN個詰めていく際に電子波が獲得する位相変化を観測した。
その結果は、Nが1,2,3,5,6,7,8,9,11,12,13個の場合は1997年の実験報告のように、位相のπジャンプが起こるが、4,10個の際には、位相のジャンプがなく位相は滑らかに繋がっていた。これは、人工原子内において「内部構造」として形成される軌道が影響していることを強く示唆している。さらに、この実験の研究者は、人工原子の対称性を変えて、πジャンプとジャンプ無しの位置(N)が変わることを確かめており、ここにおいて、軌道の影響で電子波位相のπジャンプとジャンプ無しの両者が現れたことは証明されたと言える。
原子核でも多数の核子を軌道を作りながら詰めていくため「マジックナンバー」が存在することが知られている。今後は、「人工原子」の場合について、作られる軌道と「マジックナンバー」の解析に研究の焦点があてられるであろう。「人工原子」の内部構造解析が精密科学になっていくとも言える。
つまり、「位相が必ずπジャンプする」というユニバーサル理論の夢は破れたのである。しかし、引き替えに、「人工原子」でも位相制御研究の持つ大きな力は見せつけたわけで、電子波位相操作は量子情報の応用に大きな貢献をするであろう。