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第3形態のべん毛運動を共生細菌で発見―べん毛繊維を体に巻き付けながら遊泳:学習院大学/産業技術総合研究所

(2017年12月25日発表)

 学習院大学と(国)産業技術総合研究所の研究グループは1225日、べん毛繊維を菌体に巻き付けて遊泳するという、全く新しいべん毛運動を発見したと発表した。害虫カメムシの共生細菌がカメムシに共生する際に利用する特徴的な遊泳運動で、この運動を阻害することによる害虫防除技術の開発が期待できるという。

 多くの遊泳性細菌は、べん毛を使って水中を自在に移動している。その際、べん毛繊維を時計回り、あるいは反時計回りに回転させ、前進・後退したり、方向転換している。

 これまではこの前進・後退と方向転換(タンブリング)の2つの運動形態が知られていたが、今回それらとは異なる第三の運動形態を発見した。

 農作物の害虫として知られるホソヘリカメムシの消化管と共生器官との間には、非常に細い狭窄部(きょうさくぶ)が存在していて、共生細菌であるバークホルデリアのみがこの狭窄部を通過できる。大腸菌のような非共生細菌は運動性を持つにもかかわらず狭窄部を通過することはできない。

 研究グループは、狭窄部を通れるか通れないかの違いは、未知の特異な運動機構によるのではないかと考え、共生細菌のべん毛運動を蛍光顕微鏡や超高感度カメラなどを使って、狭窄部位模倣環境下で詳細に観察・調査した。

 その結果、べん毛繊維が細胞本体に巻き付きながら遊泳する様子が頻繁に観察され、これにより、共生細菌はべん毛を身にまとってドリルのように粘性液体中を進み、狭窄部を通過していることが明らかになった。

 さらにガラス表面での移動を調べたところ、大腸菌は時間経過とともにガラス表面に結合して動けなくなったのに対し、バークホルデリアではガラスに捕捉されて動けなくなる様子は観測されなかった。蛍光顕微鏡観察の結果、菌体に巻き付いたべん毛繊維がガラス表面の凹凸にがっちりとはまり回転することで推進力を得ていることが推測されたという。

 研究グループはミミイカの共生細菌であるアリビブリオ菌についてもべん毛運動を調べたところ、全く同様なべん毛巻き付け運動が観察された。このため、今回発見された第3形態のべん毛運動は様々な共生細菌に共通してみられる可能性があるとしている。

 今回の成果は、共生細菌の感染・定着を防ぐための新たな害虫防除剤の開発などへつながることが期待されるという。