高性能リチウム電池実現へ新分析手法―充放電中の内部変化を測定:東京工業大学/高エネルギー加速器研究機構ほか
(2016年6月30日発表)
東京工業大学、高エネルギー加速器研究機構、京都大学は6月30日、高性能蓄電池「リチウムイオン電池」の内部で充放電時にどんな変化が起きるかをリアルタイムで測定できる技術を開発したと発表した。放射線の一種である中性子線を用いて電池内部の様子を原子レベルでとらえられる。より高出力で長寿命など高性能化が求められている電気自動車や電力貯蔵用の電池の開発に威力を発揮する。
リチウムイオン電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することで繰り返し充放電できる二次電池。単位体積当たりに蓄えられる電気量が多く、携帯用電子機器などの電源として広く使われている。
今回開発したのは、充放電途中のリチウムイオン電池に中性子線を照射、電池内の電極材料に含まれる元素によって散乱された中性子をとらえ、電池内部で起きている変化を目に見える画像にして分析できるようにしたシステム。茨城県東海村にある大強度陽子加速器研究施設「J-PARC」を中性子源として利用する特殊環境中性子回折計「SPICA」を用いて実現した。
実験では、一般に最も広く使われている直径18mm、長さ65mmの円筒リチウムイオン電池を使用、充放電しきるまでに要する時間を30分から20時間まで変えた5つの充放電パターンについて測定した。その結果、充放電中に電池内部で変化していくリチウムイオン分布を時々刻々とらえることができた。さらに、10時間よりも短い時間内に放電する場合には電池内部で不均一な反応が進行し、リチウムイオン分布が不均一になることなどもわかった。
従来は充放電中のリチウムイオン電池の内部で何が起きているかを調べるには、分析専用に作られた特別な形状のモデル電池を使うしかなく、実用的な電池で起きている現象を調べるには限界があった。このため、リチウムイオン電池の性能を飛躍的に向上させるブレークスルーには、実際に使用されている電池を使って通常の使用環境下で観測できる新たな分析手法の開発が求められていた。