運動による認知機能の低下のメカニズムを解明―低酸素化での激しい運動で前頭前野の活動が低下:筑波大学ほか
(2018年1月23日発表)
筑波大学と中央大学の共同研究グループは1月23日、高所の登山やマラソンなどの激しい運動で起こる注意力や判断力などの脳機能の低下を実験的に確認するとともに、運動による脳疲労のメカニズムを解き明かしたと発表した。運動性認知疲労の予防や改善に役立つという。
高所の低酸素環境下で運動をしたり、激しい運動を継続して脳への酸素供給が低下したりすると、注意・集中、計画・判断といった高次の認知機能が低下することが知られている。登山の遭難事故や競技終盤のパフォーマンスの低下などにはこうした認知疲労の関与が考えられている。しかし、これまで詳しいメカニズムは明らかでなかった。
研究グループは今回、平地と同様の20.9%酸素濃度の環境と、標高3,500m相当の13.5%酸素濃度の低酸素濃度環境のもとで、一般人にややきつく感じる中強度運動を10分間被験者に課し、同時に、運動の前後で「ストループ課題」という実行機能を測る課題に答えてもらうというテストを行った。
その結果、低酸素環境下での運動では実行機能の指標に有意な遅延が認められ、10分間の中強度運動は機能低下を引き起こすことが確認された。
この結果をもとに、低酸素環境下・中強度運動で機能低下する脳内神経機構を、脳機能のイメージング法の一種である光トポグラフィー法という装置で調べた。
低酸素下10分間の中強度運動、その前後のストループ課題という条件のもとで大脳の前頭前野の脳活動を同装置で測定したところ、実行機能を担う中心的領域であり、注意や集中などに関わっている前頭前野背外側部の活動低下が見出された。
研究グループは「運動による脳疲労の機構が初めて明らかになった。認知機能低下の予防や対処法の提案につながる」としている。