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熱電材料の創製に新しいタイプの物質構造浮上―天然の硫黄銅鉱物で発現機構を解明:産業技術総合研究所

(2018年2月1日発表)

 (国)産業技術総合研究所と九州大学の共同研究グループは21日、熱電材料としての可能性を持つ新しいタイプの物質構造とその機能発現機構を解明したと発表した。熱電材料の探索範囲の飛躍的な拡大と、より高い熱電性能を持つ新材料の創製が期待できるという。

 熱電材料は、熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換できる金属や半導体。未利用の排熱を電気に変換して利用するための材料として期待されている。

 効率的な熱電発電には、熱電変換の重要な指標であるゼーベック係数が大きいことと同時に、電気伝導率が高く、熱伝導率が低いという、一般には相反する性質を併せ持つ必要がある。

 この両立は「ラットリング」と呼ばれる原子の大振幅振動が有効であることが知られているが、これまでラットリングは原子がカゴの中に取り込まれた構造を持つカゴ状物質でのみ生じると考えられており、ラットリングによる熱電性能向上を期待できる材料系は限られていた。

 研究グループは先に、カゴ状構造を持たないテトラへドライトという天然の硫黄銅鉱物でもラットリングが生じていることを発見、今回、平面配位構造を持つこのテトラへドライトでラットリングが誘起される原因などを詳しく調べ、その解明に成功した。

 それによると、合成したテトラへドライトの全ての試料において、銅原子が3つのイオウ原子から成る三角形に垂直な方向にラットリングしており、その振幅とエネルギーは試料ごとに異なること、銅原子のラットリングは、イオウ原子の三角形内で化学的圧力を受けた銅原子が三角形の面外に逃れようとして生じたことなどが分かった。

 見出されたこの平面ラットリングは、従来のラットリングとは異なりカゴ状構造を必要としない。このような平面配位構造を持つ材料系は膨大にあるため、こうした材料において、原子の置換などで平面内の実効的な化学的圧力を強めて平面ラットリングを誘起させるように材料設計を行うと、高い性能を持つ新しい熱電材料の発見につながることが期待されるという。