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鉄系超伝導体母物質の電子状態解明―新物質の探索に貢献も:物質・材料研究機構ほか

(2018年2月1日発表)

 (国)物質・材料研究機構と立命館大学は21日、比較的高い温度で電気抵抗ゼロを実現する新しい鉄系超伝導体探索に役立つ有力な手がかりを得たと発表した。鉄系超伝導体のもとになる“母物質”の電子状態を初めて解明、鉄系超伝導が現れる仕組みの解明に向けた重要な成果を得た。将来的に新たな機能を持った電子素子の開発などにもつながると期待している。

 鉄系超伝導体は2008年に東京工業大学の細野秀雄教授らが発見、そのわずか1年後には電気抵抗がゼロになる温度が30℃も上昇したため、新たな高温超伝導体の有力な候補物質として注目されている。ただ、鉄系超伝導体になぜ超伝導現象が現れるかは、ほとんど未解明なままになっている。

 そこで、物材研の寺嶋太一主席研究員らと立命館大学の池田浩章教授らの研究グループが、中国科学院と米国立強磁場研究所(NHMFL)と共同で、鉄系超伝導体の中でも超電導になる温度が絶対温度56℃(約—217℃)と最も高い1111型と呼ばれる一連の超伝導体に注目。それらを作る際の元になる母物質であるカルシウムと鉄、ヒ素、フッ素の化合物「CaFeAsF」を対象に、超伝導が現れる仕組みを解明するうえで重要とされる物質内部の電子状態を調べた。

 その結果、固体中の電子の運動状態を示す最も重要な指標とされる「フェルミ面」を完全に決定することに成功、その特徴が理論的な予測とも完全に一致することを確認した。さらにフェルミ面が2種類あることや、そのうち「電子的なフェルミ面」と呼ばれるものは不純物の影響を受けにくく、固体中を高速で移動する「ディラック電子」という特別なタイプの電子によるものであることなどを明らかにした。

 これまでCaFeAsFは高品質の単結晶を作ることが難しく電子状態の分析ができなかったが、今回、中国科学院の研究者らが合成したミリメートル単位大の高品質単結晶を用いて初めて詳しい解析に成功した。