乳児期の“栄養記憶”と肥満の関係―遺伝子レベルで仕組みを解明:東京医科歯科大学/九州大学/筑波大学
(2018年2月13日発表)
東京医科歯科大学、筑波大学などの研究グループは2月13日、乳児期の栄養状態が成人期の肥満体質に影響する仕組みを解明したと発表した。栄養状態によって肥満に関係する糖質代謝関連遺伝子の働きが変化、それが成人期まで記憶・維持されることを突き止めた。肥満や糖尿病などの生活習慣病にかかり易い体質を生み出すリスクを乳児期のうちに抑え込む「先制医療」に手がかりが得られると期待している。
妊娠期や乳児期の栄養に過不足があると、成人後に生活習慣病を発症する危険度が高まることが知られているが、その詳しい仕組みはよく分かっていなかった。そこで東京医科歯科大の小川佳宏教授(兼九州大学教授)、橋本貢士准教授の研究グループが筑波大の島野仁教授らと共同でその解明に取り組んだ。
研究グループは、乳仔期のマウスの肝臓において糖質燃焼や脂肪組織による糖の取り込みを促進するホルモン「FGF21」の遺伝子DNAに脱メチル化と呼ばれる化学変化が起きることに注目。この化学変化には、脂質が結合したときにFGF21遺伝子の働きを活性化する生体内センサー「PPARα受容体」が関与していることを突き止めた。
そこで、授乳期の母マウスにこの生体内センサーを活性化させる薬を投与、その母マウスの乳で仔マウスを育てた。その結果、仔マウスの遺伝子DNAの脱メチル化が促進され、成長後も記憶・維持(「エピゲノム記憶」と呼ばれる)されることが分かった。そのため成長した後も糖質燃焼の活発な状態などが維持されるとみられる。一方、成長した後に薬を与えてもDNAの脱メチル化は起きなかった。
この成果について、研究グループは「乳仔期の栄養状態が成長後の肥満の発症・進行の抑制に関係することが示唆された」として、人間の乳児期の栄養状態が成人期の肥満のなり易さに影響する分子機構の一つが明らかに出来たとみている。