パイプラインの鉄を腐食させる電気細菌の働きを解明―効率的で環境負荷の少ない防食対策に道を拓く:物質・材料研究機構ほか
(2018年2月17日発表)
(国)物質・材料研究機構と(国)理化学研究所を中心とする研究チームは2月17日、パイプラインなどの鉄を腐食させる原因として、電気細菌が鉄から電子を直接ひき抜く酵素群を使って酸化させていることを発見した。この酵素の働きを抑える薬剤を開発することで、効率的で水環境汚染の少ないパイプラインの保全対策につながるとみている。
研究チームは、鉄を電子の供給源として増える細菌(硫酸還元菌)の細胞膜を電子顕微鏡などで詳しく分析した結果、新たな外膜シトクロム酵素が高濃度で生まれることを発見したと発表した。
これは電子を細胞膜の内外へと運ぶ働きをするたんぱく質で、この酵素が多く働いている時だけ電子が引き抜かれていることを確認。鉄を腐食させる細菌が、鉄から電子を引き抜いている直接的な証拠となった。深海の堆積物に住む細菌に同種のものが多いことも分かった。
これまで腐食の原因は、鉄が硫酸還元菌の作る硫化水素に電子を奪われ、硫化鉄になるためと考えられていた。ところが鉄が硫化水素と接触しなくとも腐食が進むことから、理屈に合わず謎とされていた。
その後、固体表面から直接電気を引き抜いて生命活動をする「電気細菌」の仕業との提案が出されていたが、電気細菌と鉄の腐食との関連は実証されていなかった。
細菌による鉄の腐食は、パイプラインの破断で石油が流出するなど大きな事故につながる危険性がある。米国では毎年300億ドル(約3兆円)から500億ドル(約5兆円)もの損害を出している。
またその対策に殺菌剤などが使われているが、膨大な薬剤コストがかかり水環境汚染も深刻な問題となっていた。
今回見つけた細胞膜表面のシトクロム酵素の働きを抑える薬剤の開発を進めることができれば、化学殺菌剤に代わる安全で安価なパイプラインの防食対策が可能になるとみている。