イオン伝導の新メカニズム発見―高性能燃料電池の開発に道:東京工業大学/名古屋工業大学/新居浜工業高等専門学校/総合科学研究機構/日本原子力研究開発機構ほか
(2018年4月27日発表)
東京工業大学は4月27日、日本原子力研究開発機構などと共同で次世代エネルギー源として期待される固体酸化物形燃料電池の高性能化に道をひらく研究成果を得たと発表した。燃料電池の中核部品である酸化物イオン伝導体の性能を左右するイオン電導の新しいメカニズムを発見した。より低温で高効率の動作が可能な高性能燃料電池の実現に役立つという。
東工大の藤井孝太郎助教、八島正知教授らの研究グループが、名古屋工業大学、新居浜工業高等専門学校、総合科学研究機構、日本原子力研究開発機構、J-PARCセンターと共同で明らかにした。
固体酸化物燃料電池は水素などの燃料を電気化学反応させて発電する電池だが、今のところ高温領域でしか作動しないという問題があった。そのため本格的な実用化には、600℃以下の中低温での動作を可能にする高性能な酸化物イオン伝導体の開発が不可欠とされていた。
研究グループは、中低温で非常に高い酸化物イオン伝導度を持つ物質として1995年に発見されたランタンとシリコン、酸素の化合物であるアパタイト型酸化物イオン伝導体に注目。そのイオン伝導メカニズムについて、J-PARCセンターが持つ特殊な中性子構造解析装置「SENJU」などを用いて詳しく分析した。
その結果、ランタンの割合がわずかに多いアパタイト型酸化物イオン伝導体の結晶中には、本来シリコンが存在するべき結晶格子の部分が空孔になっており、安定的に存在していることを突き止めた。さらに空孔があると、空孔がない場合に比べてイオン伝導度が400℃の下で26倍も高くなることがわかった。
アパタイト型酸化物イオン伝導体が高いイオン伝導を示すのは、これまで結晶格子間に酸素が存在するためと考えられていた。これに対し今回の実験では、結晶格子間の酸素は確認できず、この定説を覆す形となった。
研究グループは「アパタイト型酸化物イオン伝導体が示す高いイオン伝導度の要因が明らかになった」として、今後の革新的な燃料電池やセンサー、酸素分離膜などの開発につながると期待している。