牛の良好受精卵を選別する技術を開発―体外受精の低い妊娠率のアップに朗報:農業・食品産業技術総合研究機構ほか
(2018年5月9日発表)
(国)農業・食品産業技術総合研究機構は5月9日、東京農工大学、近畿大学、扶桑(ふそう)薬品工業(株)と共同で牛の受精卵を選別する技術を開発したと発表した。細胞内を生きたまま連続観察する方法を使って実現したもので、選別した良好受精卵を長距離輸送し牛に移植して受胎させることにも成功、牛の妊娠率アップに繫がることが期待される。
近年、経済的な価値の高い和牛を体外受精により増産する試みが増えてきている。しかし、妊娠率は30~50%と高くないのが実情で、妊娠に至らなかった場合の畜産農家の損失は大きく、100頭規模で年間の損失額は数百万円にもなるといわれている。
このため、牛の体外受精の妊娠率向上は国の農林水産研究基本計画の重点目標の一つになっており、流産しない良好な受精卵を確実に選別できる技術の開発が求められている。
今回、共同研究グループは、特定の分子と反応すると蛍光を発する蛍光プローブを使って細胞内の分子の挙動を可視化する「ライブセルイメージング」と呼ばれる技術を用いて受精卵の選別に成功した。ライブセルイメージング技術の応用によってこれまでの顕微鏡観察ではできなかった牛の受精卵の内部を生きたまま連続観察できるようになり、細胞核や染色体に異常のない良好な受精卵を選別することが可能になった。
実験では、東京農工大学で採取した牛の卵子を培養しながら和歌山県の近畿大学に送って受精とライブセルイメージング技術による選別を実施、得られた良好受精卵に凍結処理を施し農研機構(茨城県つくば市)まで長距離輸送して2頭の黒毛和種に移植するということを実施しているが2頭共受胎している。
農研機構は「ライブセルイメージング技術を用いて良好受精卵を選別することで牛の妊娠率向上が期待される。長距離輸送できることから将来的には広範囲をカバーする良好受精卵供給センターなどの創設により受胎能の高い受精卵を安定的に農家に供給することが可能になる」といっている。