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遺伝子の機能欠損が高い頻度で顕性遺伝すること発見―顕性遺伝は”例外的“との常識くつがえす:東京大学/産業技術総合研究所

(2018年5月17日発表)

 東京大学大学院の大貫慎輔特任研究員と大矢禎一教授(兼産業技術総合研究所客員研究員)は517日、これまで多くの場合潜性遺伝(従来の劣性遺伝)すると考えられてきた遺伝子の機能欠損が、高い頻度で顕性遺伝(従来の優性遺伝)することを発見したと発表した。

 一対のゲノムからなる二倍体生物において、異なる対立遺伝子Aaを持つ状態をヘテロ接合という。このヘテロ接合体でaが機能欠損突然変異である場合、その機能は対立遺伝子Aによって補われるので機能欠損の表現型は現れない、つまり顕性遺伝しないと予想され、例外的に起こると考えられてきた顕性遺伝を“ハプロ不全”と呼んでいた。

 研究チームは今回、真核生物のモデルとして知られる出芽酵母を対象に、この酵母の増殖に不可欠な必須遺伝子のハプロ不全について詳しく調べた。

 その結果、少なくとも一つ以上の形態的形質で異常を示す変異株が全必須遺伝子欠損株の59%あること、つまり6割近くの必須遺伝子の機能欠損が顕性遺伝したことが分かった。出芽酵母には1,112の必須遺伝子があるが、このうちの657遺伝子(59%)の欠損変異株が野生株とは異なる細胞形態を示し、いわゆるハプロ不全性が認められた。細胞増殖速度を手掛かりとしたこれまでの研究では、ハプロ不全性を示す遺伝子の割合はわずか9%だった。 

 今回の成果は、遺伝子の機能欠損が頻繁に顕性遺伝することを示すもので、顕性と潜性の優劣の概念に変更を迫るだけではなく、疾患遺伝子の診断や疾患の防止などにつながることが期待できるという。