生態系の変化をとらえる新手法―食物網の複雑さ3指標で:総合地球環境学研究所/東北大学/立命館大学/森林総合研究所ほか
(2018年5月15日発表)
総合地球環境学研究所、(国)森林総合研究所などの研究グループは5月15日、“食う-食われる”の関係で多様な生物種を相互につなぐ「食物網」の複雑さを3つの指標でとらえる新しい手法を作ったと発表した。野外生物調査と生物組織の化学分析を組み合わせることで計算できる指標の時間変化などを調べることで、河川の生態系が人間活動の影響を受けて変化する様子をとらえることにも成功した。
生物は、植物から高等動物に至るまで “食う-食われる”の関係で複雑なネットワークを作っている。植物は草食動物に、草食動物は肉食動物に、その動物はさらに別の肉食動物に食べられるという「食物連鎖」が知られているが、現実には複数種の生物が複数種の生物を食べるといった複雑な網の目状の「食物網」を構成している。こうした食物網は生物多様性とも密接な関係があるとされているが、どう関係しているかを明らかにする方法は限られていた。
そこで研究グループは、食物網に含まれる生物のバイオマスを、どのような餌に由来しているのかに応じて複数の栄養段階に分配・整理する「栄養ネットワークの解きほぐし」という方法を応用。食物網を通じて生態系内を移動する物質やエネルギーの流れをより単純化することを試みた。
滋賀県と和歌山県の4つの河川で主に水生昆虫からなる水生無脊椎動物について野外生物調査と生物組織の化学分析(安定同位体分析)を実施。その結果をもとに、多様性を表す指標として知られる「シャノン・ウィーナー指数」から、①各栄養段階における種の多様性の平均値 ②栄養段階の多様性 ③一つの種が所属する栄養段階の数の多様性、という3つの指標(D指標)を計算した。その結果、シャノン・ウィーナー指数の値に差はなくても、D指標が大きく異なる場合があった。また、D指標の地点間での違いは、河川生態系の季節変化や人間活動の影響などによって説明できることが分かった。
このためD指標を比較することで、これまで困難だった食物網の複雑さをとらえることができるようになったとして、研究グループは「漁業資源の管理や野生生物の保全などへの応用が期待される」と話している。