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熱電変換現象「異方性磁気ペルチェ効果」を初めて観測―接合のない単一の磁性体で電子冷却実現へ:物質・材料研究機構ほか

(2018年5月17日発表)

 (国)物質・材料研究機構と東北大学の共同研究グループは517日、磁性体中で電流の方向を変えると発熱や吸熱する熱電変換現象「異方性磁気ペルチェ効果」を観測することに世界で初めて成功したと発表した。熱電変換の新たな応用開発が期待されるという。

 電子の磁気的性質をスピンというが、磁性体においては、スピンの効果によって電流や熱流の流れ方が磁化の方向に影響されることが知られている。

 そのような現象の一つは異方性磁気抵抗効果で、磁性体の電気抵抗が磁化と電流のなす角度に依存して変化する。温度差から電流が生じるゼーベック効果も磁性体においては磁化の方向に依存する。

 その逆過程である、電流の流れに沿って熱流が生じるペルチェ効果も磁化方向に依存して変化する。ただ、「異方性磁気ペルチェ効果」と名付けられたこの現象 は、これまで実験的に観測された例はなかった。

 研究グループは今回、この観測に成功した。

 電流から熱流への変換効率をペルチェ係数といい、異方性磁気ペルチェ効果が生じる磁性体においては、磁化が電流に対して平行な場合と直行している場合とで、ペルチェ係数が異なる。

 この性質を利用すると、磁性体中に非一様な磁化分布を作ることにより、ペルチェ係数の異なる物質を接合したかのように、発熱・吸熱を発生させることができる。研究グループはニッケル金属をコの字に加工、電流と磁化が平行な領域と直行している領域の境界となる角をつくり、この部分の温度変化分布を特殊なサーモグラフィ法(赤外線計測技術)で計測した。

 その結果、観測された温度変化信号が異方性磁気ペルチェ効果に由来していることが実証されたという。

 熱電変換現象で加熱・冷却を生み出すには従来2つの異なる物質を接合した構造が用いられてきたが、異方性磁気ペルチェ効果を利用すれば、異なる物質の接合のない、単一の磁性体による温度制御が実現できる。

 今後大きな異方性磁気ペルチェ効果を示す磁性材料を探索・開発することにより、電子デバイスなどのサーマルマネジメントへの貢献が期待されるとしている。