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熱電変換効率12%を達成―ナノ構造形成などで高効率化:産業技術総合研究所

(2018年5月21日発表)

 (国)産業技術総合研究所は521日、環境中に捨てられている膨大な廃熱を電力に変える熱電変換技術で熱電変換効率12%を達成したと発表した。熱電素子の内部にナノメートル(1nm10億分の1m)単位の構造を形成する技術や、複数の素子を二段重ねにするカスケード型技術を開発して実現した。さまざまな廃熱源に応じて自由に熱電変換システムを設計でき、未利用なままの多様な廃熱源の利用に役立つと期待している。

 熱電変換効率の向上のため、産総研はこれまでに ①素子材料の内部にナノ構造を作る ②熱電変換材料や素子を複数個積み重ねたセグメント型にする、という技術開発を進め成果を上げてきた。今回はこれらの成果を基に、セグメント型の代わりに一種類の熱電変換材料を使用した一段型熱電変換モジュールを複数段積み重ねたカスケード型にして、より高効率の熱電変換システムを実現した。

 今回開発したカスケード型熱電変換モジュールでは、300650℃の高温で高い熱電性能を発揮するテルル化鉛による熱電素子と、100℃程度の温度で高い性能を示すテルル化ビスマス系材料による熱電素子を用いた。それぞれ8個ずつを組み合わせた一段型熱電変換モジュールにしたうえで、それらを二段重ねのカスケード型にした。

 熱電素子に用いたテルル化鉛は溶融・凝固させる際にゲルマニウムを0.7%添加した。これによって内部にナノ構造ができるよう調整することができる。実際に5300nm程度のナノ構造ができることを世界で初めて確認、それによって熱電素子として高い性能が実現できたという。

 この結果、低温領域での効率などが改善され、高温側600℃、低温側10℃のときに最大出力電力が1.8W、最大変換効率が12%に達したという。従来、ナノ構造のないテルル化鉛の熱電素子を用いた場合の変換効率は7.5%程度に留まっていたが、今回はこれが大きく上回った。

 産総研は、今回の成果について「ナノ構造を形成したテルル化鉛を用いて実用化に役立つ10%超の高い変換効率を実現した」とし、今後は更に高効率化を目指すとともに長期安定性などの実証実験を進める。