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レタスは光の強度などで代謝物を自在に変えている―人工光照射の実験により初めて明らかに:筑波大学ほか

(2018年5月21日発表)

 筑波大学、(一財)電力中央研究所、(国)理化学研究所は521日、共同で「人工光照射により生育したサニーレタスは、用いる光質(こうしつ)・光強度・照射時間によって異なる代謝物群を生産することを、世界で初めて明らかにした」と発表した。

 世界の人口は、2050年までに90億人に達すると予想され、屋内生産型の植物工場による食料の供給方法に注目が集まっている。

 なかでも完全閉鎖型の植物工場は、無農薬野菜の生産が行なえると期待され、太陽光に代わる光源としてLED(発光ダイオード)を用いる研究が行われている。

 しかし、植物がどの程度の感度で光の波長の違いを区別しているかについては良く分かっていない。

 そこで、研究グループは、現在の植物工場で盛んに生産されているサニーレタスについて有用代謝物生産に有効な光質(波長分布特性)と代謝(生命維持のための一連の合成・化学反応)の関係を明らかにしようと統合オミックス解析と呼ばれる手法を使って網羅的に調べた。

 実験は、サニーレタスの苗にピーク波長470nm(ナノメートル、1nm10億分の1m)の青色光、同680nmの赤色光と、2種類の緑色光(同510nm524nm)を短期間(1日)と長期間(7日)照射して生育したそれぞれのサンプルについて細胞内に存在する低分子代謝物を3種類の高性能質量分析装置で検出し解析する、という方法で行った。

 その結果 ①緑色光照射による代謝物プロファイル(代謝成分の詳細)は、青色光よりも赤色光に類似している ②短期間照射では、光強度の違いが代謝物プロファイルの変化に最も大きく寄与する ③長期間照射では、光強度ではなく光質の違いが代謝物プロファイルの変化を引き起こす原因になっている事が判明。植物研究で一般に用いられている蛍光灯の照射より赤色光照射で糖類や植物脂質類が、青色光照射で抗酸化成分として知られるフラボノール配糖体、クロロゲン酸類がそれぞれ多く蓄積されることが分かった。

 こうしたことから研究グループは、植物体内で起きている人間の眼では分からない代謝が「光質や光強度、照射時間により特徴的に変化することが明らかになった」と結論。「植物工場で生産される野菜の価値を高めるために光をデザインすることで、味や健康にかかわる有用代謝物生産を自在に操る技術の開発に貢献できると考えられる」といっている。