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植物ホルモンが働く新しい仕組み―発芽制御で収量増加も:農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2018年6月4日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構と岡山大学の研究グループは64日、種子が芽を出すのに必要な植物ホルモン「アブシジン酸」が働くための新しい仕組みを発見したと発表した。実験用植物を用いてイネや小麦など重要作物に存在するたんぱく質が重要な役割を果たしていることを突き止めた。イネや小麦が収穫前に降雨などの影響で発芽し、作物の品質低下をもたらすという穂発芽が起こりにくい新品種の開発に役立つという。

 植物は乾燥や低温などのストレスにさらされると、アブシジン酸を蓄積して気孔を閉じたりさまざまな遺伝子の働きを調節したりして、その環境に耐えている。この植物ホルモンが働くには、大きく2つのグループに分かれる一群の酵素「たんぱく質リン酸化酵素タイプ2CPP2C)」が重要な役割を担っている。

 今回は、このうち発芽時にアブシジン酸が働くために主な役割を担っているたんぱく質として知られる「AHG1」に注目、モデル植物のシロイヌナズナで詳しく調べた。その結果、アブシジン酸が働くにはAHG1に加えて、「DOG1」と呼ばれるたんぱく質を介する新たな仕組みも存在することを突き止めた。DOG1は厳しい環境下では発芽しないという種子休眠に関わるたんぱく質だが、これまでその機能はよく分かっていなかった。

 これら二種類のたんぱく質を植物体内で作る遺伝子は、イネやコムギ、オオムギなどの重要作物も持っている。コムギなどの栽培では作物の品質低下をもたらす穂発芽が問題となっているが、今回AHG1に加えてDOG1を介した植物ホルモン「アブシジン酸」の制御機構が初めて明らかになった。

 研究グループは「発芽を制御する仕組みの理解を飛躍的に進めることができた」として、今後は穂発芽しにくい農作物の効率的な開発を進め、気候変動でマイナスの影響を受けている農作物の収量増加を目指す。