細胞分裂の制御機構解明へ―核小体の構造異常がカギ:筑波大学
(2018年6月6日発表)
筑波大学は6月6日、がんの悪性度を診断する際の指標としても使われている細胞内構造体「核小体」の崩壊が細胞分裂の開始を遅らせることが分かったと発表した。DNA損傷などのストレスが細胞にかかると、核小体が変化して細胞死や細胞老化などにつながるが、その実態は良く分かっていなかった。細胞分裂の制御機構を新たな視点から理解するのに役立つと期待している。
筑波大の木村圭志准教授、日本学術振興会の林優樹特別研究員らの研究グループが、(公財)がん研究会がん研究所の広田亨部長との共同研究によって解明した。
核小体は細胞の核内にあるミクロの構造体。たんぱく質が遺伝情報をもとに作られる際に欠かせないリボソームの組み立て場所として知られている。増殖が活発な細胞では核小体が巨大化するため、がんの悪性度を示す指標にもなる。さらに細胞増殖の停止や細胞死、細胞分裂など生命活動と深く関わっているとされているが、詳しい実態は分からなかった。
そこで研究グループはヒトの培養細胞である「HeLa細胞」を利用、遺伝子工学的な手法で核小体の中にある約600種類のたんぱく質の役割を調べた。その結果、約60種類の核小体たんぱく質が細胞分裂に関与、このうちNOL11と呼ばれるたんぱく質が細胞分裂の開始に関係していた。細胞分裂は核小体の中の様々な酵素の働きで進むが、NOL11が働かないと細胞分裂の引き金になる酵素「Cdk1」の活性が抑制され、細胞分裂の開始が遅れる事が分かった。
研究グループは、今回の成果について「核小体と細胞分裂の具体的な関連性が初めて示された」として、核小体の構造異常が病理学的にどのような意義を持つかを解明するための重要な手がかりになるとみている。