3生物にまたがる緊密な共生関係を新発見―被子植物の送粉昆虫の幼虫がコケで生育:国立科学博物館
(2018年6月12日発表)
(独)国立科学博物館は6月12日、これまで無関係と考えられていた生物間に予想もしなかった緊密な共生関係が存在することを新発見したと発表した。谷川に生育するチャルメルソウという植物の送粉昆虫であるキノコバエの幼虫の生息実態を調べていて明らかになったもので、野生生物の保全には周辺環境の理解が重要なことが改めて示されたとしている。
花を咲かせる植物の大部分は花粉を媒介する送粉昆虫を必要とする。近年、送粉昆虫としてハエの仲間の重要性が注目されているが、その生活史は分かっていないことが多い。
本州以南の渓流沿いに見られるチャルメルソウは数種のキノコバエに花粉媒介を依存していることが知られている。しかし、そのキノコバエ類の幼虫がどこでどのように生きているかは全くの謎だった。
研究チームは長年の野外調査で、キノコバエが周辺の湿った環境に生えるチョウチンゴケ類に産卵する姿を何度か目撃した。そこで、その仲間のコケ類を含めて調べたところ、チョウチンゴケやジャゴケなどの植物体の上に、決まってハエの仲間の幼虫が生息していることを見出した。
そこで、これらの幼虫を実験室で飼育し、特定の遺伝子を取り出してDNA配列をデータベースと照合したところ、これらの幼虫が数種のキノコバエの幼虫であることが確認された。
つまり、生活史が未知であったキノコバエ類が幼虫期にコケ類を食べて育っていることを見出した。
これは、チャルメルソウの種子繁殖が送粉昆虫の餌となるコケ類に支えられているということであり、コケ類‐昆虫類‐被子植物という3者間に、これまで想定されていなかった緊密な共生関係があることを意味している。
今回の発見は、「コケが育てばチャルメルソウが殖える」といった思いがけない形のつながりが生き物の世界に存在していることを物語っているとしている。