大気汚染物質の窒素が沖縄海域の植物プランクトンを増やす―大気と海洋生態系のモデルを改良して発見、人工衛星データとも一致:海洋研究開発機構/神戸大学/国立環境研究所
(2018年6月28日発表)
(国)海洋研究開発機構の竹谷文一主任研究員と神戸大学、(国)国立環境研究所は6月28日、東アジア地域から飛来する大気汚染物質の窒素化合物が、沖縄・小笠原海域の植物プランクトンを増やしている可能性があることを、スパコン「地球シミュレータ」を使った数値計算で見つけたと発表した。植物プランクトンは魚類の生育に不可欠な上、気候変動の原因となるCO2の吸収にも深く関わるだけに、大気と海洋を行き来する新たな物質循環の解明に繋がるものと見られる。
海洋表層に生息し、魚や海洋哺乳類の餌になる植物プランクトンは、水温や日射量のほか栄養塩の量によって生息数が左右される。外洋の熱帯・亜熱帯地域は、河川や海底から供給される栄養塩が極めて少ないために“海の砂漠”とも呼ばれている。こうした貧栄養海域は海洋全体の半分を占めているとみられる。沖縄・小笠原海域も、硝酸塩やアンモニウムなどの窒素化合物が極めて少ないことが知られていた。
一方、東アジアでは経済発展によって工場などから大気汚染をおこす微粒子状物質PM2.5などの拡散が急激に増えた。これらはぜん息やアレルギー、循環器系を悪化させると心配されている。
ところがこの汚染物質には植物プランクトンの生息に必要な窒素化合物が豊富に含まれていることから、海洋生態系の豊かさに深く関わっていると考えられているものの、定量的な解析はなされていなかった。
研究グループはこれまで別々の研究に使われてきた「大気化学領域輸送モデル」と「海洋低次生態系モデル」を結合し、「地球シミュレータ」で亜熱帯海域の数値計算実験を開始した。2009年から2016年までのPM2.5など大気窒素化合物の沈着量を推定し、モデルに組み込んでこの海域の植物プランクトンの変化を推定した。
その結果、植物プランクトン量は大気窒素化合物がないとした場合には0.043mg/m3 で、あるとした場合には0.10 mg/m3と2.3倍に増加することが分かった。小型の植物プランクトンを中心に海洋生態系に大きく影響しているとみられる。さらに人工衛星で得られたデータとも一致した。
またPM2.5の主成分の硫酸アンモニウムや、より大きな微粒子中の硫酸塩の関与も分かってきた。研究グループは今後、現場観測による実測データと突き合わせ、より正確に植物プランクトンへの影響を把握するとともに、窒素化合物以外のリンや鉄などの成長阻害物質についても調べることにしている。
今回の解析では、人の住む人間圏と海洋、あるいは陸域と海洋の地球システムが、これまで考えられていた以上に深い関わりを持っていると予想される。植物プランクトンはCO2の吸収にも関与することから、気候変動との関わりについても解明することにしている。