脳の男性化・女性化に働く遺伝子の役割解明―脳の性分化の最初期段階が明らかに:国立精神・神経医療研究センター
(2018年7月2日発表)
国立精神・神経医療研究センターと筑波大学の研究グループは7月2日、Ptf1aと名付けられた遺伝子が、胎児期において脳の男性化あるいは女性化に関わっていることを発見したと発表した。脳の発達のごく初期における性差の形成過程が明らかになったとしている。
男性と女性では脳の構造や機能に若干の違いがあり、ものの考え方や立ち居振る舞い、嗜好などに関する男女差はその反映とされている。
ヒトでは妊娠12~22週頃、マウスでは出生直前~出生後1週間ころの「臨界期」と呼ばれる時期に、男性ホルモンの一種であるテストステロンの刺激を受けると男性化し、受けないと女性化することが知られている。しかし、臨界期以前の脳の性分化機構についてはこれまでよく分かっていなかった。
研究グループは、さきに小脳のない奇形マウスから、小脳の発達に関わっている遺伝子Ptf1aを発見し、Ptf1aが小脳や膵臓をはじめ、網膜、脊髄、延髄、視床下部で働いていることを解明してきた。ただ、構造が複雑で多様な機能を担っている視床下部という脳領域における役割の究明は遅れていた。
研究グループは今回、視床下部でのPtf1aの働きを、マウスを使って詳しく調べた。その結果、Ptf1aが臨界期よりもだいぶ前の胎児期において視床下部の神経前駆細胞と呼ばれる部分で発現することを見出した。マウスの場合この発現は胎生10日に始まり胎生16日にはほとんど失われた。
次に、視床下部においてPtf1a遺伝子が壊れたノックアウトマウスを作製したところ、Ptf1aを欠いたノックアウトマウスはテストステロンの刺激を受けても男性化せず、また、テストステロンの刺激を受けない場合の女性化も起こらなかった。
これらの結果から、胎児期の視床下部のPtf1aが脳を「性分化準備段階」へと導き、その後の臨界期でのテストステロン刺激・非刺激によって男性化脳・女性化脳へと性分化することが明らかになったという。
これまで脳の性分化に関わる遺伝子はいくつか報告されているが、Ptf1aはそれらの中で最も早く働く最上流遺伝子であり、今回の研究で脳の性分化の最初期段階が明らかになったとしている。