ニワトリの卵で有用たんぱく質―遺伝子技術で大量生産に道:産業技術総合研究所ほか
(国)産業技術総合研究所と(国)農業・食品産業技術総合研究所は7月9日、ニワトリの遺伝子を改変することで医薬品などの有用たんぱく質を大量に含む卵を産ませることに共同で成功したと発表した。この遺伝的性質は特別な条件で子の世代にも受け継がれ、長期にわたって有用たんぱく質を含む卵が安定的に得られる。高価なバイオ医薬品などの大量生産に道をひらくと期待している。
共同研究チームが用いたのは、次世代の遺伝子操作技術として注目されるゲノム編集技術「クリスパー・キャス9(ナイン)法」。今回は卵白に含まれるたんぱく質の約半分を占めるオボアルブミンの遺伝子が存在する染色体の一部(遺伝子座)にヒト遺伝子を組み込んだニワトリを作製、その卵を用いた有用たんぱく質の大量生産法の開発を試みた。
まず、精子や卵子の元になる細胞を利用して、抗ウイルス薬として知られるヒトインターフェロンβの遺伝子を組み込んだ精子を作る雄のニワトリを生み出した。この雄を遺伝子改変していない野生型の雌と交配させたところ、ヒトインターフェロンβの遺伝子を持った雌雄のニワトリが得られた。このうち雌はどれも30~60mgのヒトインターフェロンβを卵白に含んだ卵を5カ月以上にわたって産み続けた。
これらの卵は孵化することはなく直接次の世代が生まれることはなかったが、最初の交配で生まれた雄のニワトリを通常の野性型の雌と交配させると、そこで生まれた第2世代の雌は同様にヒトインターフェロンβを同程度含む卵を産んだ。第3世代以降も同様で、ニワトリを用いて有用たんぱく質を長期にわたって安定的に大量生産できることが示せた。また、卵白から得られたインターフェロンβの活性は、簡単な処理を施すことで市販薬と同等の性能にできると研究チームはいっている。
研究チームは「ニワトリを生物工場として、高価な組み換えたんぱく質を低コストで大量生産できることが初めて示された」という。そのため現在、国内企業と連携して従来より安価な研究用試薬の実現を目指し精製工程の研究に取り組んでいる。