[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

有害な一酸化炭素を室温で無害化する新触媒を開発―空気清浄機への利用が可能に:物質・材料研究機構ほか

(2018年7月19日発表)

 (国)物質・材料研究機構は719日、有害な一酸化炭素(CO)を室温で効率良く無害化する新触媒を開発したと発表した。空気清浄機などへの利用が期待される。

 COは、炭素や有機物が不完全燃焼すると発生する無色無臭で極めて毒性の強い気体。安定で容易に分解しない。 

 このため、通常の空気清浄機のフィルターでCOを取り除くことは難しく、2020年の東京オリンピック の分煙化議論を契機に喫煙室向け空気清浄機のCO無害化をどうするのかが課題になっている。 

 新触媒は、物材機構と首都大学東京、(株)NBCメッシュテックの研究グループが共同でそのCO無害化の温度を室温にまで下げることに成功したもので、大きさがnm(ナノメートル:1nm10億分の1m)オーダーの超微細な酸化鉄ナノ多孔体に金ナノ粒子を保持させたハイブリッド構造にすることで実現した。

 金は、化学的に不活性な金属で、バルク(塊)の状態では普通触媒にならない。ところが、直径10nm以下の金ナノ粒子にすると室温でCOを分解(酸化)するようになる。このこと自体は、30年以上前から知られていた。しかし、金のナノ粒子は互いに集まって凝集し易く簡単に活性が低下してしまう弱点があった。

 新触媒は、酸化鉄のナノ多孔体を金のナノ粒子を固定する担体に使って金の凝集を抑えより多くの金を担持できるようにして室温で効率良くCOを無害化できるようにした。

 超微細な孔を持つナノ多孔質材料の合成は数多く報告されているが、酸化鉄は結晶化で細孔が崩壊してしまうため良好な細孔がこれまで作れなかった。研究グループは、水熱合成法と呼ばれる方法を使ってそれを解決した。得られるナノフレーク状の酸化鉄ナノ多孔体は、1g当たりおよそ200㎡の非常に高い比表面積(全粒子の表面積の和)を持ち、15wt%(wtは重量)の金ナノ粒子を凝集することなく均一に分散した状態で担持できるという。

 実験では、市販されている金ナノ粒子触媒の5倍以上のCO除去率が得られ、初期の20%の触媒活性を長期間維持できることを確認した。

 今後は、酸化鉄だけでなく、様々な金属酸化物のナノ多孔体を担体として使用することも検討して生産規模拡大や応用製品開発を目指すとしている。