[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

太陽光と光電極で高付加価値化学品の合成可能に―シクロヘキサンを常温・常圧酸化しナイロン原料作る:産業技術総合研究所

(2018年8月2日発表)

 (国)産業技術総合研究所は82日、半導体光電極を用い、太陽光を利用してシクロヘキサンを酸化し、ナイロンなどの原料であるKAオイルを常温・常圧下で選択的に合成する技術を開発したと発表した。太陽光エネルギーとわずかな電気エネルギーで高付加価値の有用化学品を合成する革新的プロセスの構築に大きく踏み出す成果という。

 KAオイルは、環状の飽和炭化水素であるシクロヘキサンを酸化して得られるシクロヘキサノンとシクロヘキサノールの混合物。原料となるシクロヘキサンは炭素(C)6個と水素(H)12個が環状に結合した化合物で、そのC-H結合は非常に強固であり、現在KAオイルの製造は高温・高圧下で多大なエネルギーを使用して行われている。

 産総研の研究グループは今回、太陽光に反応する光電極の作用でシクロヘキサンを直接酸化させることを要とした新技術を開発した。

 作成した光電極は、光触媒として用いられている酸化タングステンを薄膜化した酸化物半導体製で、この半導体光電極と対極とを反応容器内にセット。シクロヘキサンと硝酸を含む反応溶液にこれらの電極を漬け、酸素が溶液中に溶存している状態で光電極に太陽光を当てた。

 実験によると、太陽光照射だけでもKAオイルはわずかに生成したが、外部から補助電圧をかけると生成速度は劇的に向上し、最大で6倍に達した。

 常温・常圧下で選択的反応が進むメカニズムとしては、太陽光照射により半導体光電極に生じるプラスに帯電した正孔の酸化力が非常に強く、これがシクロヘキサンの強固なC-H結合を切断して水素をイオンとして脱離させ、その後のKAオイルの生成を進行させることが推測されるという。

 今回の開発により、難度の高い有機合成反応を行う際に、光電気化学的な反応による合成の有用性が示されたとしている。今後、有機系、無機系の両方で高効率な反応の開発を進めるという。