高CO₂下で水稲の収量を大幅に増やす方法見つける―籾(もみ)の数増やす遺伝子を「コシヒカリ」に導入し16%の増収実現:農業・食品産業技術総合研究機構
(2018年8月10日発表)
(国)農業・食品産業技術総合研究機構は8月10日、水稲の多収品種が持っている籾(もみ)の数を増やす遺伝子を人工交配で「コシヒカリ」に導入して高CO₂(二酸化炭素)濃度環境下で栽培すると収量が大幅に増えることを見つけたと発表した。
大気のCO₂濃度は、18世紀後半の産業革命以前280ppm(1ppmは100万分の1)程度だった。それが現在約400ppmにまで増えているが、水稲は大気中のCO₂濃度が上昇するとスクロース(砂糖の主成分)やでんぷんなどの光合成産物が増加することから収量や生育は高まることが知られている。しかし、将来の高CO₂濃度条件下で、収量を増やすために備えるべき形質(性質や特徴)は、これまで特定されていなかった。
今回の研究成果は、50年後を想定した現在より200ppm高い約600ppmという高CO₂の環境を人為的に作って得たもので、将来の高CO₂環境に適した多収品種を開発するのに役立つことが期待される。
水稲で多収を得るには、光合成を高めて光合成産物を増加させ、それを籾の付いている穂に効率良く運ばなければならず、既存の多収品種の「タカナリ」などは一般の品種より籾の数が多い。
しかし、そうした多収品種は、籾の数以外にも高い光合成能力など多収に繫がる他の性質も併せて持っており、籾数を増やすことが多収に結びつくのかどうかを正確に判断できるまでにはなっていない。
そこで、農研機構は、水稲の多収品種が持っている籾数を増やす遺伝子を人工交配により導入したコシヒカリを水田内に設けた高CO₂濃度環境を作る「開放系大気CO₂濃度増加(FACE)実験施設」内で栽培し、その収量や生育を調べた。
実験は、つくばみらい市(茨城県)の水田内にCO₂を満たしたチューブを正八角形状(内径17m)に設けたFACE実験施設をセットしてチューブからCO₂を対照区(通常大気)より200ppm程度高い約50年後を想定した濃度で流しながら栽培した。
栽培には、多収品種「タカナリ」が持つ籾数を増やす遺伝子「AP01」をコシヒカリに人工交配とDNAマーカー選抜という方法で導入した系統「NIL-AP01」を使った。
その結果、籾数を増やす遺伝子を導入した「NIL–AP01」は、その遺伝子が導入されていないコシヒカリより16%も増収になることが分った。
多収品種「タカナリ」が持つ籾数を増やす遺伝子「AP01」は、コシヒカリ以外の他の既存品種にも人工交配とDNAマーカー選抜で容易に導入できるという。