モデル生物「線虫」の姉妹種発見―進化・多様性のナゾ解明に貢献へ:宮崎大学/東北大学/森林総合研究所
(2018年8月10日発表)
宮崎大学、東北大学と(国)森林研究・整備機構森林総合研究所は8月10日、医学・生命科学の分野で広く使われているモデル生物「線虫」の姉妹種を発見したと発表した。線虫に最も近縁の新種で、沖縄県石垣島のイチジクの実から見つけた。動物の進化や多様性が生まれる仕組みの解明に役立つと期待している。
森林総研の神崎菜摘主任研究員、宮崎大の菊地泰生准教授、東北大の杉本亜砂子教授の研究グループが、米、英、台湾の研究機関と共同で沖縄県石垣島のイチジクの実から発見しC.イノピナータと名付けた。
線虫は医学・生命科学の研究で使われる重要なモデル生物で、これまでにノーベル賞を受賞した研究成果のうち3つは線虫を用いたものとされている。ただ、その姉妹種が見つかっていなかったため、進化生物学的な解析が遅れていた。
線虫は通常は体長0.5~4mm程度の細長い生物で、多様な環境で生育できる。これに対し、発見した姉妹種は線虫に比べて体長が2倍以上あり、生育環境もイチジクと密接に関係しているなど異なっていた。そこで研究グループは、この違いが何によって起きるのかを明らかにするため、姉妹種の全遺伝情報(ゲノム)を記録した塩基配列を解読して線虫と比較した。
その結果、ゲノム上を動き回ることで生物に突然変異を起こさせるトランスポゾンと呼ばれる塩基配列が数多く存在。その一方で、トランスポゾンの動き方を制御する可能性を持つ遺伝子は失われていた。また、姉妹種が特定のイチジクの実という限られた環境でしか生息しないことを反映して、生物が環境変化を感知するのに必要な受容体たんぱく質は減少していることなどが分かった。
研究グループは、姉妹種を対象にして特定の遺伝子機能の破壊や遺伝子導入などを可能にする手法も確立しており、「線虫と併用して研究を進めれば、動物の進化や多様性を生み出す仕組みの解析など、さまざまな生命現象の理解がさらに深まる」と期待している。