望む性質持つ有機分子を合成―AIと量子力学使い新技術:理化学研究所ほか
(2018年8月24日 発表)
(国)理化学研究所と(国)物質・材料研究機構の研究グループは8月24日、人工知能(AI)と量子力学を駆使して望む性質を持つ有機分子の合成に成功したと発表した。偶然に合成された有機分子を基に作り上げる従来手法では得られない、新機能有機分子の合成に道を開くという。太陽電池や電気貯蔵材料、有機EL用発光材料など、有機エレクトロニクス分野の新材料開発に弾みがつくと期待している。
望む特性を持つ有機分子の設計にAIを利用する研究はこれまでも進められてきたが、設計された分子の構造が安定的に存在するのか、実際に合成できるのか、本当に設計通りの性質を示すのか、などについては良く分からなかった。
そこで研究グループは、深層学習を用いたAI技術と物理学の基礎理論である量子力学に基づく分子シミュレーション技術を組み合わせ、AIが設計した有機分子の中から安定的に存在し設計通りの性質を持つ分子を自動選別することを試みた。具体的に、有機ELや有機太陽電池で重要な5つの特定波長の光を吸収する有機分子を設計し、合成可能かどうかを検証した。
このためまず、4種類の原子(水素、炭素、窒素、酸素)で構成される分子量400程度の有機分子1万3,000個の構造式をAIに入力し、実在する有機分子がどのような法則に基づく構造式を持っているかを学習させた。次いで特定の吸収波長を持つ有機分子を探し出し、その安定性と性質を量子力学に基づく分子シミュレーション技術で計算、必要とする吸収波長を持つ安定した有機分子を探し出した。
一つの吸収波長を持つ分子の設計の計算には2日間かかるため、5つの吸収波長については合計10日間かかったが、3,200個の物質が候補としてあがった。このうち86個が設計通りの吸収波長を持ち、かつ安定的に存在する分子であることが分かった。このうち6個は既に合成されたことのある物質だった。
研究グループは「今回設計した残りの80個の新しい有機分子も所望の光を吸収し、合成できる可能性がある」と話している。今回の成果によって、今後はこれまで全く注目されなかった分子が見つかったり、化学者が考えもしなかった分子が発見されたりする可能性もあると期待している。