新しい原理・仕組みのAI向けデバイスを発明―イオン・分子濃度をメモリと計算処理に利用:物質・材料研究機構
(2018年9月5日発表)
(国)物質・材料研究機構は9月5日、これまでの人工知能(AI)システムとは仕組みや構造、作動原理が異なる新しいタイプの意思決定デバイスを作製したと発表した。アナログ型の情報処理を行う新しいAIシステムの開発につながることが期待されるという。
近年、人間の意思決定能力を上回るAIシステムの技術開発が進められているが、膨大な情報をプログラムに沿って処理し、高度なプログラム処理による学習によって意思決定するという方式のAI開発には限界も指摘されている。
研究グループはこの克服をめざし、新タイプのAIの開発を見据えた新たなデバイスを作製した。
新デバイスは「意思決定イオニクスデバイス」と名付けられたもので、イオニクスを作動原理とする。イオニクスは、エレクトロニクスが電子の振る舞いやその働きを応用した技術であるのに対して、イオンの挙動や機能を応用した技術を指す。
作成したイオニクスデバイスは、固体電解質内の水素イオンの移動が引き起こす電気化学現象を利用して動作する。その基本構造は、水素イオンを輸送することが可能なナフィオンと呼ばれる固体電解質に白金電極を取り付けたもので、電流を印加したり電圧を測ったりする電気測定部と、その計測制御・データ処理をするコンピュータが付いている。
パルス電流を印加すると固体電解質内には様々な電気化学現象が生じる。この現象を利用することにより、迅速に学習して適切な判断を行う。イオニクスデバイスは、経験をイオンや分子の濃度変化として記憶するので、過去の経験をコンピュータのメモリで蓄積する必要はなく、それに基づく意思決定のための計算処理も不要。正しい判断を繰り返すと、一方向に反応が進み、イオンや分子の濃度が偏り、正しい判断を下し易くなる。
このデバイスを用い、無線通信において、混雑した通信ネットワークの状況変化に適応して通信量を最大化するための最適な通信チャネルを選択するという問題を解くことに成功した。複数の利用者が互いにチャネルを譲り合って全体の通信量を最大化するという、より高度な問題においても最適なチャネルの選択が可能だったという。
今後プログラム無しで動作するAIシステムの実現を目指したいとしている。