特殊なハエの食害でラン科の植物が激減―乱獲や土地開発で自生地も消失し、ランに大打撃:神戸大学/森林総合研究所
(2018年9月18日発表)
キンランの花にいるランミモグリバエ (撮影:設楽拓人)
神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師と千葉県農林総合研究センター、(国)森林総合研究所九州支所の研究グループは9月18日、ハエ類によるラン科植物の食害調査を実施した結果、調査した5地点では壊滅的な被害を受けている実態を解明したと発表した。全国的にも被害の噂があり、これ以上広がると種子による繁殖ができずに遺伝的多様性が失われ、大きな打撃になると警鐘を鳴らしている。
ランは独特な花の造形が目を引き、品種が多様で、高貴な香りも魅力になっている。手間がかからず手元に置いておける生命のたくましさ、美しさから、ランの魔力にはまる人も多い。日本ではラン科植物が2万種以上も確認され、キク科とともに最も種の数が多いとみられている。
しかしブームの裏には、乱獲や土地開発による自生地の消失などによって、国内に自生するランの70%以上が環境省の絶滅危惧種に指定されている。これまでは昆虫によって花粉が運ばれ、受粉ができているため十分な種子ができるはずとみられていた。
ランミモグリバエは、開花時期に若い果実に産卵し、ふ化した幼虫は果実の中の種子を食べて成長し羽化の際に果実を食い破って出てくる習性がある。ところがランは食害を受けても、他の食害のない果実と同じくらいの大きさに成長するため、被害が表面化しなかった。食害自体は1980年代から知られていたものの、種子生産がどこまで妨げられているかは不明だった。
研究グループは2010年から4年間にわたって国内5地点で調査した。関東地方に生息するマヤラン、サガミラン、キンラン、クマガイソウ、ハマカキランの5種について、人工授粉後に袋掛けをして食害されなかったものと、何もしないで放置したものとを比較し、生産された種子の質や量がどのように違うかを調べた。
その結果、調査地点では5種のランがどれもランミモグリバエによって種子生産が95%以上減少することを初めて実験で明らかにした。
この被害が全国にどの程度広がっているかは不明だが、ランミモグリバエは国内他地域から人の手で持ち込まれた「国内外来種」で、ハチなどの天敵がいないとする説がある。
研究グループは、国内他地域の被害の実態を数値化して抑えるとともに、ランミモグリバエの遺伝構造を解明して、国内外来種説の検証などに取り組むことにしている。