温暖化時の気温上昇の指標と降水量増加の指標は逆比例―地球全体の降水量の増加は従来推定の3割減:東京大学/筑波大学ほか
(2018年9月14日発表)
東京大学と筑波大学、国立環境研究所の共同研究グループは9月14日、二酸化炭素濃度が2倍になった時の気温上昇の指標として用いられている「平衡気候感度」と、気温上昇1℃あたりの降水量増加の指標である「水循環感度」の間には、平衡気候感度が大きいと水循環感度が小さくなる、という逆比例の関係があることが明らかになったと発表した。
また、衛星観測データを用いた定量評価によると、水循環感度は温暖化シミュレーションによる直接推定値よりも3割ほど小さいことが判明、温暖化で地球全体の降水量は想定したほど増えない可能性が示されたとしている。
平衡気候感度は、大気中の二酸化炭素濃度が倍増し、気候システムがそこで平衡化した時の気温上昇量の推定値を指す。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の第5次評価報告書は、平衡気候感度を1.5℃~4.5℃と見積もっており、3℃の幅の不確実性がある。
平衡気候感度が0.5℃違うだけで温暖化の緩和にかかるコストに大きな違いが生じるため、推定値の幅を縮めることが温暖化予測研究の重要な課題だが、3℃の幅はここ30年狭まっていない。
水循環感度は温暖化時の地球全体の降水量の変化を指す。気温上昇1℃あたり降水量が何%増えるかという数値が主に用いられ、これまでの研究で、水循環感度は1℃あたり2~3%と見積もられている。
平衡気候感度の不確実性の主な要因は、雲の被覆量や光学特性がどう変化し、それが放射を介して気候にどうフィードバックするかがよく分かっていないため。水循環感度の不確実性は大気からの放射変化が水蒸気や雲などの変化に依存することによるとされる。
両感度はこれまで別々に推定されてきたが、研究グループは今回、大気下層の雲の変化が平衡気候感度と水循環感度を関連付けるという仮説を立て、日本が開発した全球気候モデルMIROC5.2を用いてシミュレーションした。
その結果、下層雲が温暖化時に減少すると日射の反射が減少して平衡気候感度が大きくなる一方、大気から出て行く余剰な赤外エネルギーも減少するため水循環感度(降水量の増加)は小さくなる、という反比例関係を確認した。
水循環感度は、気候モデルによる直接推定では1℃あたり2.6±0.28%なのに対し、1.8±0.36%と約30%も小さくなった。不確実性はまだ大きいが、今回の研究により改善に向けた今後の進展が期待されるとしている。