イッテルビウム光格子時計の長期運転達成―セシウム原子時計よりも時間の精度大幅向上へ:産業技術総合研究所
(2018年9月21日発表)
(国)産業技術総合研究所は9月21日、現在のセシウム原子時計よりも精度を1,000倍前後高められるイッテルビウム光格子時計の長期運転に成功したと発表した。時間の単位である「秒」の定義の改定に向け、国際原子時の精度向上に貢献できるとしている。
光格子時計は、原子の発する振動を測って時間の長さを決めている原子時計の一種。原子時計としては現在、セシウム原子の励起によって作られるマイクロ波(周波数約9.2GHz(ギガヘルツ))が利用され、3,000万年に1秒程度の誤差を実現している。
光格子時計は、マイクロ波よりも4、5桁周波数が大きく、誤差を大幅に縮小できる光領域の周波数を利用するもので、これまでに周波数約429THz(テラヘルツ)のストロンチウム光格子時計が作られ、1桁から3桁相当の高精度化を得ている。
このストロンチウム光格子時計よりもさらに高精度化が図れるイッテルビウム光格子時計の開発に取り組んでいる産総研の研究チームは、今回、開発課題として残されていたイッテルビウム光格子時計の安定な動作を実現、長期運転に成功した。
光格子時計は、レーザー光の重ね合わせによって作り出される光格子と呼ばれる光の容器にイッテルビウム原子を閉じ込め、そこから高精度な信号を得る。そのために、減速レーザー、冷却レーザー、光格子レーザー、時計レーザーといった各種のレーザーを用いる。今回これらすべてのレーザー光源の周波数を光周波数コムと呼ばれる技術で制御する新しいシステムを開発し、長期間の安定な動作を実現した。
このイッテルビウム光格子時計を数か月の実験期間内に定期的に運転したところ、積算して60時間以上の運転を実現でき、イッテルビウム光格子時計が将来国際原子時の精度向上に貢献できる能力があることが示されたという。また誤差評価の結果、開発した光格子時計は9,000万年に1秒程度の誤差であったという。
国際原子時の高精度化を巡っては、国際度量衡局で開催されたメートル条約関連会議において、2026年頃をめどに、「秒」の定義を現行のマイクロ波から光に基づく定義に変更することが検討されている。研究グループは今後イッテルビウム光格子時計の安定性と信頼性をさらに向上させ、標準器としての完成度を高め、国際原子時に貢献したいとしている。