バイオマスから油脂を生産する新種の酵母を発見―沖縄の西表島から採取、これまでの効率の壁を破る:理化学研究所ほか
(2018年9月21日発表)
(国)理化学研究所は9月21日、明治薬科大学などと共同で油脂を生産する新種の酵母を見つけたと発表した。バイオマスの分解で得られるグルコース、キシロースという2種類の糖から効率良く油脂を生産できることから実用化が期待される。
常温で固体状の脂肪と液体状の油を合わせて油脂という。人間はこれをエネルギー源として食べ物から摂取している。一方、油脂は、食品、医薬品、化成品などの原料として使われ、現在はその多くを石油から化学的に合成しているが、温室効果ガス抑制などの観点からバイオマスや微生物を活用した新たな生産プロセスの開発が求められている。
酵母は、大きさが5~10µm(マイクロメートル、1µmは1,000分の1mm)程度の微生物(菌類)の塊。理研バイオリソース研究センターと明治薬科大の共同研究チームは、これまでに西表島(沖縄)と利尻島(北海道)の植物と土壌から1,021株の酵母を分離している。今回、龍谷(りゅうこく)大学と京都大学の研究陣が加わってその中から油脂を効率良く生産する酵母を3株見つけた。
酵母は、糖を取り込んで油脂を含む様々な化合物を生産し、微細藻類や糸状菌などより増殖が速いが、これまでの一般の酵母で油脂を効率良く生産することは難しかった。
バイオマスの構成要素であるセルロースを分解すると微生物が取り込むことのできる炭素原子を6個含むグルコースや、炭素原子5個からなるキシロースが得られる。だが、これまでの酵母は、グルコースとキシロースの両方が存在するとグルコースだけを優先的に取り込み、グルコースがほとんど取り込まれてからキシロースを取り込むという性質を持っていたためキシロースの利用効率が低く、油脂生産に時間がかかり、これまでは遺伝子組み換え技術を用いてその解決を図ろうとしてきた。
今回の3種の酵母は、1,021株のスクリーニング(選別)を行なって発見したもので、グルコースとキシロースをほぼ同時に取り込んで油脂を高効率で生産することができる。
共同研究グループは、系統解析などから3種の酵母が「Cystobasidium(シストバシジウム)属」に属す新種であることを確認済みで、採集地の西表島の名を採って「Cystobasidium iriomotense(イリオモテンセ)」と命名した。