たくさんの論文の知識を1枚の図にまとめ上げる人工知能を開発―新材料の探索を、職人芸から効率的な設計法に変革:物質・材料研究機構
(2018年9月25日発表)
(国)物質・材料研究機構は豊田工業大学シカゴ校と共同で、数千編の科学技術論文の文章を基に、材料設計に必要な製造法(プロセス)や構造、特性との強い関係を拾い出し、まとめて1枚に図示する人工知能システムを開発したと、9月25日に発表した。開発者を助け、合理的で効率的な材料設計が可能になるとしている。
これまでの新材料の探索、開発では、専門家が豊富な知識と経験則に基づいて職人芸的な試作や実験を繰り返してきた。それには偶然性や多大な時間とコストなどがかかっていた。
これを画期的に変革しようと米国で始まったのがヒトゲノム計画になぞらえたマテリアルゲノム計画だった。急速に発達した情報技術や計算科学を駆使し、優れた新材料の発見から実用化までのスピードアップを図るのが狙い。
既にある材料関係の膨大なデータをコンピューターで解析し、組成、構造、特性、製造法などに関する法則性を見つけ出すもの。しかし実験による膨大な材料データの取得とそのデータベース化には、高度な専門家による多大な労力がかかるため、思うようには進展していないといわれる。
そこで研究チームは、材料データを使う方法ではなく、公表された科学技術論文の文章データをそのままコンピューターに自然言語処理で読み込ませ、さらに深層学習を使う人工知能を開発した。
自然言語処理とは人間が普段使っている言葉をコンピューターに理解させる方法。大量の科学技術論文の文章データを読み込ませ、それぞれの文脈から相関関係の強いものを拾い出し、材料設計に必要な製造法、構造、特性の相関図として描き出す処理手順だ。
例えば鉄鋼材料の開発では、強度と延性(引き延ばされる性質)を選ぶと、微細複合組織に関する構造とプロセスとの相互関係がコンピューター上に図として表される。
今後、出力した材料設計因子相関図に数値シミュレーションを組み入れることで、どんな種類の材料を組み合わせれば、どのような新しい材料ができるかを定量的に予測し、実用化に向けた材料設計の支援技術を目指すことにしている。