10分間の軽運動で記憶力高まることを実証―MRIでヒトの脳の記憶中枢を調べ明らかに:筑波大学
(2018年9月26日発表)
筑波大学は9月26日、かなり楽だと感じる超低強度運動を10分間行うと、その直後に記憶力が向上することが明らかになったと発表した。超低強度運動は最大酸素摂取量の37%以下の強度の運動で、心拍数は若齢者でおよそ100拍/分以下、高齢者でおよそ90拍/分以下になる運動。軽運動が学習・記憶能力を向上させることはこれまで動物では分かっていたが、ヒトで効果を実証したのは初めて。記憶能力の維持・改善を目的とした軽運動プログラムの開発が期待されるという。
研究グループは実験動物を用いたこれまでの研究で、ストレスフリーな軽運動が学習・記憶を担う脳部位の「海馬」を刺激し、新しく生まれる神経細胞の数を増やすなどの効果があることを明らかにした。しかし、海馬は脳の中心部にあり、小さく複雑な部位であることから、ヒトでの検証は進んでいなかった。
研究グループは今回、海馬の神経活動を歯状回などの下位領域ごとにとらえることができる技術を開発した米国カリフォルニア大学アーバイン校の研究グループと協力し、脳の活動を高解像度で可視化できる機能的MRI(磁気共鳴イメージング法)という手法を使って軽運動の記憶への影響をヒトで調べた。
実験は若い健常な成人36人を対象に実施。10分間ペダル運動をしてもらい、5分後にMRI装置の中で記憶テストを課した。一方で、運動せずに安静状態を保ち、同じ条件で記憶テストを行い、結果を比較した。
テストしたのは、2つの似た物体の写真を順に提示し、その違いに気づくかどうかを調べるというもので、海馬歯状回の機能である、似て非なる記憶の弁別能力を評価できるという。
テストの結果、超低強度運動が海馬を活性化し、特に、海馬歯状回を中心とした記憶システム全体を上方制御することで、記憶能の向上に資することが明らかになったという。
今後、記憶力の低下した高齢者や精神疾患患者でも同じ効果が得られるか、超低強度運動を長期間繰り返して行うとどのような効果が現れるか、などといったことを調べると、記憶能の維持・改善を目的とした運動プログラムの開発につながることが期待されるとしている。