耐性菌のナゾ解明に手がかり―膜たんぱく質に薬剤排出の仕組み:高エネルギー加速器研究機構ほか
(2018年10月1日発表)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)、京都大学などの研究グループは10月1日、感染症を治療する上で深刻な問題になっている細菌の薬剤耐性の原因解明につながる新しい手がかりを得たと発表した。細菌を抑える抗菌剤を自らの細胞膜を介して外に排出するメカニズムの一端を分子レベルで解明した。将来的には薬剤耐性菌に対抗するための新しい治療薬の開発に役立つという。
細菌が薬剤耐性を持つ主な原因として、細菌の細胞膜上にある多剤排出トランスポーターと呼ばれるたんぱく質が知られている。これが複数の薬剤を細菌の外に排出する役割を担っていることは分かっている。ただ、そのたんぱく質が細菌にとって有害な薬剤分子をどのように見分け排出するのか、分子レベルの仕組みは未解明だった。
高エネ研、京都大学と東京大学、岡山大学の研究グループが独マルティン・ルター大学と協力、その仕組みの解明に取り組んだ。研究ではまず細菌の細胞膜上に多数存在するMFS型と呼ばれる多剤排出トランスポーターの中で代表的なたんぱく質「MdfA」に注目、その分子構造から薬剤排出のメカニズムを詳しく調べた。
多剤排出トランスポーターにはいくつかの異なる型が存在し、その構造を繰り返し変化させることで薬剤分子を細菌外へ排出すると考えられている。そのため今回、MdfAの分子構造を詳しく解析したところ、細菌の内側から外側に向かって開いた「外開き構造」になっていた。反対に内側に向いた「内向き構造」は、中国科学院の研究グループが既に発見しており、今回の研究でMdfAが両方の立体構造を持つ初の多剤排出トランスポーターであることが判明した。
さらに、これら二つの立体構造の変化がどのような原因で起きるのかについても解析を試みた。その結果、MdfAを構成するアミノ酸の一部を別のアミノ酸に置き換えると、薬剤を排出する活性が著しく低下することなどが確認でき、多剤排出トランスポーターの立体構造が薬剤分子の輸送に深く関与していることが明らかになった。
研究グループは「多剤排出トランスポーターの働きを抑えることが薬剤耐性菌に対抗する治療薬の開発に役立つ」と期待している。